これは近いかもしれない遠いかもしれない未来

現実のようで現実ではないかもしれない

そんな世界のとある少年少女の御噺


Innocent Eve


少女の指先がそっと何かに触れると淡く薄い桃色の光が溢れ出した。

至る所に滲んでいた赤は瞬く間に消え失せ視界から無くなった。

真っ黒な墨を零したような闇の中で少女だけがはっきりとした輪郭を持っていた。

少女自身が発光しているようで思わず手を伸ばした。








薄暗い照明しか付いていない広い部屋。

四方を囲む壁のうち一面はガラス張りになっており、夜の帳が降りた街の景色が眼下に広がっていた。

眩いばかりのビル群や車などの灯りはキラキラと輝き真上に広がる本物の星空より綺麗だ。

そのガラスを背にして革張りの回転椅子をきぃっと軋ませ一人の男が声を発した。

「先日はおおきに。流石は噂の“何でも屋”の皆さんやわ」
社長机のような大きな机に肘をつき眼鏡の奥に潜む糸目をさらに細め男はニヤリと笑う。

その視線の先には背格好の異なる6人の男が並んでいた。薄暗い部屋ではっきりとは分からないが、20代前半から10代後半くらいの青少年といった風貌だ。

「そんな世辞はいらない。今回の用件だけ述べてくれ」

男の言葉に興味も意味も持たないと言わんばかりに赤い髪の少年は淡々と述べた。彼がこの6人のリーダー格なのだろ、他の者達より一歩前に出ている。

「なんや可愛げないなぁ。もっと愛想ようてもええんに…まあええわ」

口振りこそ残念そうにしているがその表情は先ほどと変わらない。赤い髪の少年はそれすら気にしない。

「おい、あれ配ってくれへん?」

眼鏡の男は部屋の隅に控えていた青年に声をかけた。

「あっ、はい、スイマセン、今お配りします」

眼鏡の男とは相反する弱々しい感じの返事が返ってきた。

弱々しい青年は6人全員に二枚のレポートのようなものを渡した。一枚目の右上部には写真がクリップで挟んである。

「今回の依頼は護衛任務や。その写真の子のな」

「あっ!?」

その写真を見た途端、青い髪の青年があからさまに驚いた声を上げた。突然の反応にその場にいた全員の視線が集まる。
「どうかしたんッスか?」

青い髪の青年の左隣にいた金髪の少年が訝しげに問いかけた。

「いや…今はいい」

「そうか?なら話を進めてもらうぞ」

青い髪の青年の返事に赤い髪の少年は確認をしてから眼鏡の男に再び視線を戻した。

「んー?ほんまにええんか?」

「はい。それで彼女の護衛とは?」

初めてみせる青い髪の青年の反応に興味津々な眼鏡の男に早くしろと言わんばかりに依頼の内容を促した。

依頼の内容は実にシンプルだった。

少女はとある研究者夫妻の一人娘らしい。この研究者夫妻の所謂パトロンが眼鏡の男。

研究者夫妻は政府密命を受けある研究実験を行っていた。だがしかしその研究内容とその命を狙う輩がいるという。

そこで夫妻は研究とは無関係な一人娘の保護をパトロンである眼鏡の男に頼んできた。

眼鏡の男は政府とも繋がりがあるから断る理由がなかった。しかし彼の仕事には表と裏がある。

「嬢ちゃんにはご両親は学会で暫く国外に行っとるって言うてあるわ」

眼鏡の男は少女には夫妻の友達で暫く保護者代わりと伝えてあるとも言った。

少女は両親の暫くの不在を両親の友達の家で過ごすだけと思わせなければならない。

「そこで君らの出番っちゅー訳や」

大っぴらに部下を護衛につかせる事が出来ない。だから自分達の会社とは金だけの取引である赤い髪の少年率いる“何でも屋”に依頼してきたのだと。

「了解した。それで金額はいくらのつもりだ?」

「これを一週間ごとにって預かっとるで」

答えた眼鏡の男に代わって弱々しい青年が赤い髪の少年に一枚の小切手を渡した。

チラリとだけその小切手を見てすぐに緑の髪の青年にそれを渡して眼鏡の男に向き直った。
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