個性的な女子生徒…加藤 めお。
を、揶揄した男子生徒との一件でー…先生方から、生徒指導として…叱言を散々言われた佐々木。
先生方に、原因を追及されたが…頑として、口を割らなかった佐々木に、やがて、先生方が諦めてーー…叱言を散々、言ったのだ。
佐々木は、…生徒指導の先生方から、解放された時には…苦笑いを浮かべていた。
解放されるや否や、固まった筋肉や詰まった関節を動かすように鳴らし…教室へ、自身の荷物を取りに、廊下を歩く。
不意打ちをするように、ポケットに入れておいた携帯が鳴り…佐々木は一瞬、驚きに肩をびくっ!とさせ、携帯を取り出した。
着信画面に表示されていたのは、「笹目 和美」の文字。
以前、着信があった時に…佐々木は、登録しておいたのだ。が、ちょっと違うのはーー…、「笹目 和美」の下ー…表示されていたのは、(笹目の祖母)。
佐々木は数回の呼び出し音を聞いてから、通話に応じた。
「もしもし?」
《もしもし?佐々木くん?笹目です》
自分の携帯である事を確認した笹目の声と、常日頃から田畑の世話を手伝わせてくれる祖母の声。
2人の声を耳にし、佐々木は笑った。
笹目と祖母、佐々木の3人の会話。
時に、笹目と会話し…笹目を通じて、祖母と会話をする。祖母に代わってもらい、会話をする佐々木。その声には、先ほどまでの苦笑いは微塵もない。
やがて、本題を告げられ…佐々木は快諾すると、通話を終えた。
「………やっべぇ〜っ。」
通話を終えた瞬間、佐々木は焦りの色を浮かべた。
笹目と祖母が訪問するのに、部屋が汚いのだ。
佐々木は大慌てで学校を後にすると、自宅までの最短距離を全力疾走する。
息切れなどを起こしている余裕は、佐々木には微塵もない事態である。
何とか、2人が訪問する時間前に帰宅出来た佐々木は…玄関前で瀕死の状態である。
屈伸した両膝に両手を置き、俯きながら、肩を忙しなく動かす。肺に酸素を、至急取り入れるように、浅い呼吸を繰り返す。
が、その疲れも…気力で抑えつけ、佐々木は再び全力で部屋を掃除する。
『これは見られたらマズイっ!』
所詮、男の部屋である。
何とか、外見だけでも綺麗にした佐々木。
内心、瀕死を通り越している。
安心安堵に浸る余裕もなく、訪問を告げるチャイムの音が聞こえ…佐々木は、ドアへと向かった。
「ん。いらっしゃい。」
ドアを開けると、2人が和かな雰囲気と笑みを浮かべ、訪問してくれた。
年老いた笹目の祖母には重かったであろう荷を、佐々木はゆうに、軽々と受け取る。
「どうぞ。あがって行ってくれ。」
年老いた笹目の祖母を気遣い、佐々木は2人を招き入れた。
「ありがとうございます、こんなにたくさんのじゃが芋を…。大変だったでしょう?。笹目さんも、ありがとな。」
気遣いを決して忘れない佐々木は、労いの言葉も忘れず…受け取ったじゃが芋を、風通しの良い日陰に置く。
「じゃが芋は、陽に当ててしまうと…表面が緑化し、身のでんぷん質…つまりは、栄養だな。が、発芽率を高くするんだ。緑化した皮も硬くなるし、身も硬くなる。ホクホク感としっとり感もなくなるから、保存するなら…風通しの良い日陰が最適なんだ。」
冷蔵庫へ片付けない事を不思議そうに尋ねられ、佐々木は説明する。
その知識は、常日頃より蓄えられた農業好き。からである。
佐々木はじゃが芋を置くと、飲み物を用意しようと冷蔵庫へと向かった。
「っつっても、洒落たもんなんてないからなぁ〜…。」
折角、わざわざ訪問してくれた笹目と祖母に対し…手土産やら何やらを用意する時間がなかったため、冷蔵庫を開けても、女性が喜ぶものはなく…佐々木はため息を盛大に吐き出した。
「…ゆず茶しかねぇ〜し…。」
昨晩飲み干してしまった麦茶が、空になってキッチンに転がっており…冷蔵庫にあったのは、瓶に入ったゆず茶のみ。
以前、買い物に行ったさい…特売で安かったので、買っておいたものだった。
佐々木は、念のため、消費期限と賞味期限の両方を確認すると…まだまだ猶予があったので、2人にゆず茶を淹れて出した。
「ん。…これしかなかった。悪いな。」
最近になり、肌寒さを感じるようになったため…温かいゆず茶を出した佐々木。
が、……佐々木の視界に、片付け忘れた…見られたらマズイものが入った。
佐々木は決してバレる事のない笑顔でいるものの、内心では大慌ての焦りに焦る…全身、冷や汗ものである。
佐々木は決してバレぬよう、忍者さながらの、見事な足技で隠したのだった。
この時に、自分が胸中でーー…俺だって、所詮、男だからな?!っと、見苦しく言い訳をしたのは秘密である。