バッチーン!
酒場に大きな音が響く。
手を宙に振り上げたまま仁王のように立っているバニーガールと床に倒れている自分の仲間に大体のことは把握できた。
ガイが助け船を出そうか迷っていると、酒場中にいたバニーガールがハイデッカを取り囲むようにして集まってきた。
「この人があたしに手を出してきたのよ!」
「サイッテー」
口々に、同意の声がわく。
今まで、いい顔で接客していたのに……女はコワイな。
そんなことをしみじみと感じながらガイはグラスに口をつけた。
「これはおしおきが必要ね」
「そうよ、おしおきよ!」
「おしおきよ!」
(おいおい、おしおきって……)
細いバニーガールたちが一人の大男を運んでいく。
子供のときに読んだガリバーなんとかってこんな物語じゃなかったか。
…まぁ、それはいいとして。
いよいよ助けに入ったほうがいいかと腰を上げる間もないまま、レースで仕切られた店脇にバニーガールとハイデッカが消えていった。
しばらくして。
シャッ、と小気味よい音と共にレースが開かれる。
ぶーーーーーー!!!!
ガイは口に含んでいた酒をすべて吹き出した。
傍でガイの接客のため残っていたバニーガールがきゃっと悲鳴を上げてテーブルを拭く。
ガイが驚くのも無理はない。
そこに立っていたのは、全身バニー服に身を包んだハイデッカだった。
こんな幻覚を見るなんて酔いすぎたか?
頭を抱えるガイを背景に、バニーガール達が黄色い声を上げる。
「意外と似合うじゃない!」
「うん、悪くないわね」
「カワイイ〜」
となぜか高い評価を受けているが、本人はさぞかし赤面し、恥を感じているだろう……。
なにしろ、おしおきというほどだ。
「そうか?ふっ……やはり俺はなんでも似合うな」
常人の常識などハイデッカには通用しなかった。
それなりに酒が入り違う意味で赤面しているハイデッカは、バニーガールに囲まれているという状況も手伝ってか、自分の姿に少しの疑問も感じず、かなり上機嫌の様子だ。
「しかし、これ。少し小さい気がするぜ」
と、ハイデッカはしきりに胸と尻の締め付けを気にしていた。
「うーん、でもこれが一番大きいサイズなのよねぇ」
「そうそう。おしおきを受けるのはほぼ男性のお客さんだから、男用のバニー服もあるんだけど、やっぱり小さすぎるみたいね」
「でも気にしない気にしない!」
勝手に開き直るバニーガールたち。
不覚にもハイデッカの気にしている尻が目に入ってしまったガイは、慌てて目線をそらし誤魔化すようにグラスを傾けた。
「そうだ、商売名を決めないとね」
「青くて大きいから……『くじらちゃん』なんてどう?」
「それいい〜」
おもちゃで遊ぶ子供のようにバニーガールたちがはしゃぐ。
そんな一連の騒ぎに客が気付かないはずがない。
酔った客の一人が絡み始めた。
「なんだ?また新しいバニーガールが入ったのか?……なかなかの巨乳だな」
ツッコミ不在の酒場に、ガイは額に手をあてるしかなかった。
男はハイデッカを指差す。
「よし、気に入った。くじらちゃんを指名だ」
おいおい、本気か…?
動揺するガイに対し一方のハイデッカは、「俺の実力を見せてやるぜ!」とななめ方向のやる気に燃えたまま男の席についていってしまった。
「お兄さん、グラス空いてるわよ?」
唐突にかけられた声に、ガイははっと我に返る。
見ると、手にはとっくに空になったグラス。
それに酒を注ぎながら微笑むバニーガールはさっきのひどいバニーガールとは比べものにならない。
「さっきからよそ見ばっかりして…妬けちゃうわ」
「あ、いや……騒ぎに目がいっただけだ」
懸命に忘れようと努めるが、それも無駄な努力だった。
「あー、なんか眠くなってきちまった。くじらちゃん、膝貸してくれ」
反射的に視線をやると、先ほどの男がハイデッカの膝をさもそれっぽい手つきで撫で回していた。
ガイの眉がぴくりと動く。
理由のわからぬ激しい炎がガイの中で静かに燃えていた。
つづく?