世の中には物好きもいるもんだ。
『好きです…』
何で俺なんだろうか?
まぁ悪い気はしないけど。
「悪い。他にいるから」
そう言うと、そいつは泣いて走り去った。
俺はガシガシと頭を掻く。
「火神君モテますね」
「!?」
慣れたと思っていた存在に気付かず、驚いて振り返る。
地味に近い距離に、声の主はいた。
「なんだお前。立ち聞きとか趣味悪ぃな…」
「すみません。でも、僕の方が先に居ました」
じっ…と大きめの瞳が見上げてくる。
俺はふいっと顔を逸らす。
「ぁー、それは悪かったな」
「いえ」
会話は終了したものの、黒子はまだコッチを見ている。
何か凄い居心地悪い。
「…何か用か?」
「いえ」
「そうか…」
「はい」
また会話が終了して、やけに気まずい沈黙が流れる。
やっぱり居心地悪い。
告白シーンを黒子に見られたからなんだろうか?
「火神君は女性に興味がありますか?」
いきなり何を言い出すんだコイツは。
「まぁ…それなりに?」
「そうですか」
「あぁ」
「………」
いや、だから、何なの?コレ。
会話終了が早すぎんだろ…。
そして再び気まずい沈黙が流れる。
あ。
俺が教室に戻れば良いのか…。
「んじゃ俺、教室戻るわ」
一応黒子に一言いって、教室に戻るため体を反転させる。
「待ってください!」
「ぅおっ!?」
足を一歩踏み出そうとした瞬間に、黒子に腕を引っ張られる。
力が強かった訳じゃないけど、突然だったから少し体勢を崩してしまう。
「あぶねぇな…何だよ?」
「ちょっと、火神君に聞きたいことが…」
黒子は俯いてて表情が見えない。
俺は黒子の方に向き直る。
「まだ何かあんのか?」
そう話し掛けると、黒子は俺から手を離す。
いまだに顔は挙がらない。
「3つほど…」
「ぇ、そんなに?」
「はい」
ちょっとって言えばちょっとだけど、黒子で考えると3つは多いと思う。
俺にそこまで興味も無いだろうし…。
………何か自分で思って若干傷付いた。
「火神君、男に興味ありますか?」
「は?」
本当にコイツはどうしたんだろうか?
「急に何だよお前…」
「何も聞かずに答えてください」
黒子が顔を挙げ、真剣な顔で俺を見上げる。
死んでいるようで、どこか気の強い黒子の瞳が、真っ直ぐに俺を見据える。
この瞳には何かたじろいでしまう。
「何も聞かずにって…」
「どうなんですか?」
「どうもこうも、変な意味での興味はないぜ?」
今まで、男が好きとか可愛いとか思ったことなんて無い。
男とはどうなんだろう…?
なんて思ったことも無い。
「そうですか…」
「アレ、傷付いた…?」
「いいえ」
黒子のオーラが少し重くなった気がする。
表情にも影が出来た気が……。
気のせいにしておこう。
「じゃあ、僕は男に見えますか?」
「はい?」
また予期せぬ質問がきた。
何て今更な質問だよ。
「そりゃ…お前は男だろ」
「火神君から見ても完璧に男ですか?」
完璧と言われるとそんな気はしてこない。
「100%かって聞かれたら、そうじゃないんじゃないか?」
「どういう事ですか?」
「誰しもやっぱり異性っぽい所があるんじゃねーの?」
俺だって料理出来るし…。
ホラー系にはビビるし…ι
「なるほど」
「何?女にでも間違われたんか?」
「いえ。別に」
「あぁ…そうι」
一体何が目的でこんな質問をするんだろうか…。
まったく解らない。
普段から黒子の考えてることは解らないのに、今は倍解らない。
「最後です」
「質問?」
「はい」
本トに3つだったのか…。
「火神君は、僕のコト好きですか?」
「は?!」
今日一番の驚き。
さっき告白された事なんて頭の中から吹っ飛んでいた。
何よりも、黒子の頬が少し赤らんでいる事に驚いた。
コイツもこんな表情するんだな…。
ある意味失礼極まりない。
「ど、どうゆう意味で?」
「あっち系です」
「どっち系!?」
黒子はシリアス顔で言うが、まったくもって理解不能だ。
正直、黒子のコトはあんま深く考えた事はない。
大切なチームメイトであり、何気に仲の良い友達だとは思っている。
それ以上は想像した事がない。
「火神君が思うように答えてください」
「えー…。俺が思うように?」
「はい」
一瞬だけ、黒子の瞳が不安に揺れた気がした。
一体どう答えてほしいんだ…。
「んー……。じゃあ、好き…?」
「す、き…………」
「…???」
黒子は瞳を見開いて固まってしまった。
俺、何かまずいこと言ったかな…。
黒子の反応が全然解らない。
「ぼ……、ス………す」
黒子が何かを呟いた…気がする…。
影が薄いから、声も聞こえずらいんだろうか?
「何か言った?」
「いえ。特には」
「あぁ…そう」
即答されて、俺は押し黙る。
意外とハッキリ聞こえるから、やっぱりさっきのは空耳か…。
「教室。戻りましょうか」
「あ?ぁー、だな」
黒子が少しだけ笑う。
俺は、さっきの空耳を意識してしまう。
やばいな。
黒子の顔がまともに見れない。
「火神君」
「あ?」
「今日の部活も頑張りましょうね」
「…ふっ。当たり前だろ!」
黒子の頭をポンと叩く。
『僕も、スキ…です』
そう聞こえた空耳に俺は照れくさくなって、黒子の少し前を歩いた…。
end.