彼から貰ったもの。
プロポーズの言葉、
指輪、
甘い経験、
苦い思い出、
そして、
支配される快感。
冬休みに入って、僕らはより濃密な一日を過ごすべく呼吸をしている。
寝ても覚めても、彼といられる期間なのだ。
だから、
だからね、
『ユノ、』
『うん、』
『しようか、』
『ウン、』
今、朝なの。
二人で起きたばっかりで、
ユノはタバコを吸ったところなの。
ユノは吸わない。
けれど、時々体が思い出したように吸いたくなるらしい。
嫌なことがあった後、
思うことがあった時、
それから、
僕がいなくて寂しい時。
今は、なにかな。
『めずらしいね、朝から吸ってるなんて、』
タバコが占領していた唇を僕が貰う。
ユノの手は、灰皿でタバコを擦り潰しているところだった。
キスが、その味。
『ごめん、におうだろ、』
煙たい味。
『僕はいるのに、寂しくなっちゃった?』
戯れるような、キス。
『違う、怒ってもないし嫌なこともなかったヨ、』
『ふふ、』
聞きたいことを先回りして答えられてしまう。
『じゃあ、どうして?』
教えて、教えて。
キスがのってくる。
水っぽくなって、色んなものが絡み始める。
唾液が甘くなる。
『いや、満たされてんなって、朝から思ってさ、』
『なにそれ、』
キスの合間に二人で笑って、
僕は我慢ができなくて彼の体を押し倒した。
ベッドに押し付けて、
彼に僕を重ねるようにして馬乗りになる。
それからまた、キスをねだる。
『寝ても覚めても、起きても、歩っててもお前がいるじゃん、』
『うん、いるね、』
鬱陶しいくらい、僕たちは二人でいる。
『いいなって、思ってサ、』
『うん、いいね、ユノがいる。』
他ならぬ、僕といる。
あの人でもなければ、どの人とでもない。
ユノは僕といる。
押し付けたもの同士を、その気にさせる。
もう、お互いにひとりでに笑えてくるんだ。
彼の上で体を揺らして擦り付けてみる。
二人で同じものに視線を送りながら、変化していく様子を楽しんでいる。
『今日は何回できるかな、』
『何回分出んのかな、』
『さあ、どうでしょう、』
『だな、』
くだらなさすぎるやりとり。
それでも、それこそがとても幸せで、笑えてくる。
大きくなり始めたぐらいの彼がね、とても可愛くて可愛くて、つい指が離れなくなる。
いつもここで、僕はうっとりとしてしまうらしかった。
舐めていいかな、
もう、口でしてもいいかな。
『チャミナ、よだれ出てるヨ』
『ウソっ、』
『ウソ。』
『アホ、』
実に、くだらない。
けれど、
実に、愛しい。
可愛い可愛い彼のそれを、朝一番に頂く。
今の僕たちを簡潔に言い表すと、【安定期】だろう。
精神面も穏やかで、仕事と私生活との体の調子が噛み合っている。
普通の夫婦なら、じゃあ子供でも作ろうか、みたいな。
まあ、僕たちは生物学的に子供は作れないから、世の中の夫婦と同じラインでずっとセックスを楽しんでいるってわけで。
僕たちの最終形態がどんなものかはわからないけれど、
まあ、なんにせよ、僕はユノから離れる気は何万年経っても変わらないだろう。
若いからね、セックスに溺れます。
今、そのラインなわけ。
若いから、許して。
貴方がいる限り、僕は止まらないってだけだから。
『お前さあ、ほんっと、好きだよネ、』
『うん、好き、』
ユノの大きい、これが好き。
お腹が空いた状態で、美味しいものを目の前にしてる感覚と少し似てるの。
腹ペコで美味しいものを前にしてると、味覚も三割くらい増してる気がする。
僕はユノってだけで十割増し。
って言うか、ユノの味しか知らないんだけど。
『うわ、照れる、』
『ふふ、照れていいよ、』
可愛いから。
『あー、チャミナ、ちょっと試したいことがあるんだけど、』
『なに?』
ヌルヌルとする口を一度拭って、彼の顔を見上げる。
するとやんちゃなあの顔がそこにあった。
『お尻向けて、』
『え?』
『してていいから、』
『あ、うん、』
それならいいやって、思った自分て終わってるって思った。
ユノのそれを食べられてるなら、なんでもいいよ、みたいな自分だった瞬間。
そんなわけで、ユノに向けて背中をさらすことになる。
『あれ、これって、』
『そう、それそれ、』
つまり、シックスてきな。
『あははっ』
『えへ、』
行為らしからぬな、僕らの声だった。
でもね、最近そうなの。
していても、いつもの会話をするみたいに、
気負わないで居られるの。
でも、ちゃんと潤む。
慣れない体勢に、見えない彼に、予測ができないことに、
体が興奮して潤みだしている。
『あっ、』
入ってきたのは、指?
『んっ、ひっ、』
ずぶりと、体内で音がしたの。
関節が、ひとつ、ふたつと入ってくる。
一本の指がすべて、飲み込まれる。
『チャミナ、口、』
お留守になっていた口に気がついて、目を落とすといつの間にか更に質量を増していた。
彼は僕でまた増していた。
朝から、元気だな、僕たち。
『はい、ふふ、』
気持ちを込めて、尽くす。
貴方に感じてほしい。
いつもいつも、僕が絶えずこんなふうに貴方と絡み合っていたい気持ちを、知っていて欲しくて。
僕が一番に伝えられる行為が、これなんだ。
今はね。
やっぱりね、貴方と二人で、二人でしか見せ合わない姿でいることが、
まだ一番に愛しいの。
わかってくれるかな。
『あああ、』
指が、増える。
『あんん、あ、』
『チャミナ、その声まじエロい、』
入り口を、舐められる。
卑怯だ。
次にどんな動きをされるのかわからなくて、
興奮する。
でも、負けたくなくて僕は口で貴方に尽くし続ける。
吸われた分、吸ってあげるから。
指で可愛がってもらった分、指で遊んであげるから。
舌でなぞられた分、舌でとかしてあげるから。
僕たちのなんともしょうもない合戦が始まった。
でも、楽しいの。
どうしようもない、しょうもない、楽しい争い。
『あ、やべぇ、』
ほら、僕だって負けてません。
『チャミナ、それ、やべぇ、』
何がどう、やべぇんですか。
『舌、まじ、エロっ、』
ふふ。
貴方も僕の動きが見えないはず。
吸ってあげると、いつもより大きく、跳ねてくれた気がしたの。
『ねえユノ、』
『うん?』
体が温まってきた。
僕たちが繋がってもいいかもっていう体温まで、上がってきた。
彼のこれも、限界まで固くなってきた。
グロくて、エグくて、最高に愛しい。
僕の、僕だけの、これ。
雄のにおいが、朝から強い。
そのにおいで、朝から三回は、いけそうかも。
『まだダメ?』
『なにが、』
ああ、意地悪。
悔しくて、悔しくて、一番太いところを唇でぎゅっとする。
『う、』
後ろから、呻く声。
してやったり。
快感だ。
『ねえ、もう欲しいよ、』
『ダメっ、まだ決着がついてない、』
なんの決着なの、
これって準備じゃないの?
前戯じゃないの?
本番の合戦だったの?
悔しいな、もう。
彼の無邪気さがちょっと焦れったい。
って、ついでに悪態をつきそうになったのがいけなかった。
『ひあっあっ、ちょっ、んんんっ』
苛立った瞬間、僕の肩が崩れた。
彼の指の動きが、急に始まったからだった。
いやだ、負ける。
いきなりそんな動きをされて、こんなにいいところを攻められたら。
弄られてとけている僕のそこは、性別に反するように潤んでしまうらしい。
ありえねぇですよね。
全くその通りだとおもいます。
でも、相手はこのユノなんです。
雄臭駄々漏れなこの人と夫婦になったらそりゃ体質も変わりますよ。
『チャミナ、ほら、口動かせって、』
ムカつきますね、偉そうで。
でも、かっこいい。
『ああ、やだ、もう、許し』
僕も僕で、こんなふうに彼に弱いところを見せてしまうからダメなんだ。
まあ、時々は狙ってるけど。
だって喜んでくれるから。
『あ、』
ふと、指が引き抜かれる。
『なんで、』
振り返ろうとした時だった。
『いいこと思いついちゃった。』
やんちゃな声しか、聞こえなかった。
視界がね、塞がれたの。
なんだろう、タオルかな、アイマスク?
それすらも、わからない。
なんで?
どうして?
なにが起こったの。
『チャミナ、そのまま口でしてて、』
『でも、』
『いいから、しろよ、』
ああ、なにこれ、もう、
ダメ。
強く出られると、たまらない。
従いたくなる。
従ってしまう。
それが、たまらなく気持ちいい。
仕方なくはないけど、仕方なく手探りで彼のそれを捕まえ直す。
唇でもようやく捕まえられると、その瞬間に、彼のそれが戦慄いた。
彼も、興奮しているようだ。
視界が塞がれただけで、ずっとずっと興奮する。
いつもより手際よくできないくせに、どうしてか味も違って感じる気がする。
彼の濃さが、違う気がして。
視覚が遮られた分、
彼を濃く感じられるのかもしれない。
加減がわからなくて、変な音を立てて舐めて尽くしている。
いつもより濡れているのか、そうでもないのか、よくわからない。
目隠しされて、彼にしゃぶりついている僕の姿はさぞ滑稽だろう。
こんな姿は、彼にしか見せられない。
僕もこんな僕自身の姿は、見たくないさ。
彼だけが知って、彼だけが喜んでくれるためだけの姿だから。
『いい、チャミナ、マジでいい、』
次第に五感が研ぎ澄まされる。
彼が少し苦しそうに言ってくれる声も、マジでいい。
その声だけで、達してしまいそうなくらい。
『なあ、』
『はい、』
くわえているだけで、熱くて、痛い。
火傷しちゃってるんじゃないかな。
『ああっ、』
また、指が入ってくる。
指?
うん、多分、指。
ほら、動くから、彼の指だ。
『欲しい?』
指が一本、僕の中に入った来たらしい。
『く、うぁっ』
それをぐりんと捩るようにして動く。
それがものすごく、気持ちいい。
『いらない?』
いらないわけないじゃない。
今すぐ、その指を抜いて、僕に入ってきて欲しい。
首を横に振ることしか、できなかった。
『欲しい?』
今度は、縦に振るだけ。
『なにが?』
指がね、動いてるの。
だから、言いたいのに、言えないの。
いいように扱われていることが、
たまらなく気持ちいい。
『ゆの、お願いだから、』
きっとこの塞がれた視界の外側で、彼はあの可愛い唇を無邪気に笑って僕を眺めているの。
『もう、入れてっ、せつないの、』
こんなに近い距離と、
こんなに近い体温をわかちあっているなかで、
貴方の顔を想像することになるとは思わなかったよ。
それで入れてくれるの、だめなの?
どっちなの?
もどかしい。
彼の顔が見られないのが、もどかしい。
『あっ、』
また、指が抜かれる。
それから、僕の体が反転する。
反転なのかも、わからない。
背中が柔らかいから、きっとそう。
相変わらず、僕の視界は真っ暗だけれど。
手で、彼を探ろうとした時だった。
その手首を捕まれて、足が割かれた。
『あ、あぁっ、あっ!』
あっという間に、彼が僕の中に押し入って来たのだった。
今自分がどんな姿で彼を受け止めているのかがさっぱりわからなかった。
いつもなら笑ってくれる感じでよしとされたりとか、
顎が動いただけでダメって言われてる感じがある。
でも、今はそんな満足なやりとりができていないままでいる。
そのまま、また僕はいいように扱われた。
強引さと、
不安定さと、
服従させられている具合が、
ものすごくいい。
ズブズブと、彼が僕の中で溶けている。
不思議なもので、体内で彼を感じることはいつもより強い気がするよ。
血管が僕のぬかるみの中で擦れている。
擦れて彼が、喜んでいる。
そして僕が、喜んでいる。
『いつもより締まる気がする、』
打ち付けてくる段階もいつもより早い気がする。
それだけ彼も余裕なかったってことでしょ。
もう、可愛くないけど可愛いんだから。
『うう、気持ちいい、』
中学生みたいな声を出して。
可愛いったりゃありゃしない。
顔が見れないのが、惜しいけれど。
まあでも、僕も僕で、まったくもって余裕はないわけで。
どの角度から見下ろされているのかがわからない。
彼の視線がどこから降ってきているのかがわからなくて、ドキドキする。
たまらない、たまらない、
ああ、ほんとたまんない。
『きもちいい、いいっ、』
もう、ぐちゃぐちゃだし、ぐちょぐちょだし、
どのくらい無惨なことになっているのかはわからないけど、
たまんないくらい、きもちいい。
それから、また僕の体の向きが変わったみたいだった。
うつ伏せになっている。
それから、
『後、ろ?』
入り直したらしい彼は、僕をワンワンスタイルにしているらしい。
好きだよね、後ろから。
支配欲が強い人って、こっちが好きって聞くけど、そうなのかも。
当たってるかも。
そんな支配欲に染まってる僕も、アレだけど。
目隠しされて、ワンワンされている、僕。
考えただけで、三回くらい出ちゃいそうだよ、どうしよう。
打ち付けられて、もう、内股がどろどろしていて大変だ。
でも、完璧だ。
ユノ、貴方は僕を知り尽くしている。
僕が喜ぶことを、ちゃんと押さえている。
一発ずつ打ち込んでくる具合だって、僕の好きなところをちゃんと外さない。
困ったな、本当に、どんどんおかしくなる。
行為そのものが、おかしくなる。
求められても、拒めない。
だから、困った。
それが楽しくて、仕方がない。
ああ、困った。
気持ちよくて、目が覚めたくない。
朝なのに、真っ暗闇のなか。
朝から僕たちは、犬みたいになっている。
二人で望んで、二人でダメな過ごし方をして、楽しんでいる。
『ユノ、ん、あぁ、』
ものすごい集中力。
少しもブレないで打ち込んでくる。
『あぁ、あっ、んんっ、』
僕の真ん中にだけ、ちゃんと打ち込んでくる。
『もう、ダメっ、もうっ、もうっ、』
貴方は、僕を極めようとしている。
そうじゃないかな。
違う?
『イッ、』
『あぁっ!』
午前中の明るさを感じられたのは、
けっこうな時間が経ってから。
目眩がしたよ。
いきなり眩しくなったから、クラクラした。
昼前ですでに、僕らは呆けていた。
出すもの出して、バカみたいに交わって、
服従ごっこを楽しんだ。
僕をひれ伏したあとに、
彼は僕の腕のなかでものすごく甘えてくる。
本当は自分が服従されたいんじゃなくて?
変な子。
でも、ものすごく理想的な子。
究極のオトコノコ。
僕の理想のオトコノコ。
僕の、極み。
貴方のすべてが、
僕の求める極みの域なの。
『気持ちよくてバカになっちゃいそうだよネ、』
『いや、もう、なってるんじゃないかな、』
『あははっ、だよネ、』
『はい、』
『チャミナ、』
『はい、』
ほら、僕の脇の下に腕を回して胸に頬をスリスリしてくる。
こんなふうに甘えてくると、こっちのほうがやっぱりワンワンみたいだ。
『好きだヨ、ほんと、マジで、めっちゃ、』
『はいはい、』
僕を完璧に押さえている。
僕をいろんな角度でくすぐってくれる。
完璧だ。
『バカでごめん、』
『なにそれ、』
今度は目隠ししていないから、
僕の胸の上から上目使って見てくれるのがよくわかる。
『お前のことになるとバカになっちゃうっぽい、』
『ふふ、』
今更だ。
そうでしょ、僕たちはもう、互いのことでずいぶん前からバカになってる。
『午後はなにする?』
『お腹空きました、』
予定なんか無い。
『食べたらする?』
『バカですか、』
『バカって言ったほうが、バカだヨ、』
もう、ほんとうに、このこは、
『バカですよ、僕は宇宙一の、ユノバカですよ、』
どうだ、参ったか。
『俺の方が、チャミバカだ、』
こういう二人を、バカップルという。
本気で互いの愛を罵りあう、究極のバカップルだ。
無邪気なセックスも、悪くない。
終り。
一年分の、バカップルを書きたくて…(笑)