某日。本部・演習場では実戦訓練中。鼎も立ち会っている。


「最近平和ボケでたるんでいたからな。訓練くらいはやっておけよ」
「鼎のやつ…ますます存在感増してねぇか…?」

御堂、指揮モードの鼎にびくびく。そんなこんなで実戦訓練は終了。



演習場から本部に戻る道中。いちかが御堂にこんなことを聞いてきた。


「たいちょー、日曜日たいちょーんちに行っていいっすか?」
「何言ってんだよお前」

御堂、かなりだるそう。いちかがカウンターを仕掛けてくる。


「もう、きりゅさんと一緒に行く約束しちゃったんすよ〜。そしたら逢坂さんだっけ?あっさりOK貰いましてん」

なんだと!?鼎ならまだしも、いちかも一緒に来るのかよ!?


「鼎…お前いつの間に……」


鼎の顔は仮面で隠れてるが、どこか楽しそう。

「いちかに御堂のシェアハウス住人の逢坂の料理のことを話したら、どうしても行きたい食べたいというから、アポは既に取っておいたぞ」


早っ!


「鼎。せめて俺を仲介せぇよ…。しかも日曜日ってシェアハウスの住人、たぶん全員いる…」
「楽しくなりそうだな」
「鼎…お前……なんか変わったよな」

「きりゅさん日曜楽しみだね〜!逢坂さんの料理楽しみ〜♪」
いちかはテンション上がってる。


御堂は思った。ゼノク職員の烏丸が1日だけ来る話を聞いてから、もう1週間くらい経ってるが未だ音沙汰なしか…。
桐谷さんにも聞いたけど、あっちの予定がずれたのか?まぁ…よくあることだし…。



日曜日。いちかは約束通り、鼎と一緒に御堂のシェアハウスを訪れた。


「おじゃましまーっす」
「いちか、住人に迷惑かけるなよ」

鼎、たじたじ。まるでいちかの保護者だな、今日の自分は。



シェアハウス・共同スペースのリビング。リビングには既に逢坂がスタンバイしていた。

「いちかちゃん初めまして〜。逢坂だよ〜。遊びに来てくれたんだ〜。嬉しい〜!」
「逢坂さんよろしくです」

いちか、いきなり意気投合。鼎はソファーに座ったが、逢坂といちかは奥のキッチンへ。



共同スペース・キッチン。


リビングからはほとんど見えないが、このシェアハウスのキッチンは意外と広い。隣の和室にキッチンの一部が隠れているせいもある。
リビングからキッチンに繋がる短い通路には暖簾があるため、奥にキッチンがあるとわかる。


いちかはワクワクしていた。

「逢坂さん、お昼は何作るんですか〜」
「いちかちゃんが食べたいものにする?中庭にも秘密兵器があるんだよ。見る?」


秘密兵器って何ぞや?

いちかは逢坂に案内され、リビング→縁側から中庭へ。そこには石釜があった。


石釜!?これ、ピザ焼くやつじゃん!買ったのか作ったのか…どっちじゃ!?本格的にも程があるよ!


「石釜、これ作ったの。石釜ピザ食べたくてDIYしちゃった〜。大家さんからもあっさり許可出たし、石釜設置したんだよ〜」


さらっと言ってるけど、一体何者なんだよ逢坂さん!
石釜わざわざ作るか!?こだわりすぎっしょ!

中庭だから周りに迷惑にならないからあっさりOK出たのか…。このシェアハウス、縁側がL字型だし、隣とはブロック塀で区切られてる。シェアハウスの隣は貸倉庫っぽいけど。


2人が共同スペースに戻る頃、御堂がようやくリビングにやってきた。

「いちかは元気だよな〜。もう少し寝かせろよ…」
そうぼやくとソファーに腰掛けた。鼎の隣に。


いちかは中庭の石釜を見たせいか、ピザにしようと提案。ピザだけだとあれなのでサラダとスープも作るらしい。


「いいね〜。ピザ」
「あたし…食べるのは好きだけど…料理作るの苦手なんだよー…」


意外な事実発覚。あの食いしん坊ないちかが料理作るの苦手だった。まるっきりダメらしい。

御堂はいちかにこう言った。
「逢坂と一緒にやってみ。楽しいぞ」
「うん!」



時間が経つにつれ、共同スペースには住人達が集結。


「御堂さん、今日休みなの!?隣にいるの紀柳院司令補佐だよね」
「稲本お前なぁ…」

「稲本さん、御堂さんのプライベートに踏み込んだらダメだって。紀柳院さんは逢坂さんの料理目当てで来てるんだし」
そう稲本に言ったのはシェアハウス唯一の女性住人の中垣。

「お前らもう少し静かに出来ないのか。集中出来ん…」
共同スペースリビング内の和室から低い男性の声がした。和室の戸は閉じている。声の主は樋口。


中垣は空気を読んで言う。

「ごめんね〜。樋口くんいつもあんな感じでさ。料理は食べに来るからそっとしといてね」
「…わかった。キッチンが騒がしいが大丈夫なのか?」

鼎はキッチンのいちかが気になったらしい。どうやらサラダとスープを作っている様子。逢坂はピザを生地から作っていた。


「和室とキッチンの壁、厚いから樋口くんには影響ないよ。意外でしょ。ピザ生地の発酵に時間がかかるから、ランチ出来るのちょっと遅くなるよ〜」
「鼎、こんな感じなんだよこの共同スペースはな…」
御堂は冷めた反応。


「なんだか楽しそうだな」

御堂は鼎がふふっと笑ったのを見逃さなかった。
仮面で顔が隠れていてもわかるんだよ。そこそこ長く付き合っていると。なんせ先輩後輩時代から一緒だったんだから。



やがて、キッチンから中庭の石釜に1枚目のピザが入れられた。石釜のセッティングは稲本がやっていたようだ。

「稲ちゃん石釜セッティングしてやってくれたの?ありがと〜」
逢坂、少しオネエ口調になる。


「ピザにすると聞いた時点で、セッティングしてたよ」


逢坂と稲本の凸凹コンビ、料理になると連携がすごい。
どうやらバーベキューでもこの連携は発揮されるとか、なんとかで。



キッチンのいちかは逢坂に優しく教えて貰いながらスープを完成させる。

「スープ出来ました〜!サラダは野菜ちぎるだけ?」
「レタスバンバンちぎってね〜。細かくしすぎたらダメよ〜。こっちは彩り野菜をスライスするわね。ドレッシングは自家製よん」


いちかは一心不乱にレタスをちぎる。逢坂はその間にパプリカや赤玉ねぎ、ブロッコリースプラウトなど彩り野菜を飾りつけていく。

アクセントにカリカリのクルトンもトッピング。



いちかは何かに目覚めた。

料理、楽しいっ!逢坂さん、ありがとう!!



鼎は隙を見て物陰で仮面から食事用マスクに替える。


逢坂はすぐに気づいた。

「紀柳院さん、ピザ食べやすいサイズにしたげるからちょっと待っててね。
その手袋汚したくないでしょう。このビニール手袋、上から履けそう?」
「大丈夫でした」

「ちょっとそのマスクの口元見せて」
逢坂はしばし、食事用マスクの開口部を見る。御堂がチャチャ入れた。


「逢坂、鼎のやつ…困惑してんぞ」

逢坂の分析、終了。
「マスクの開口部が小さいのね。がぶりつけないのか…。…スティック状なら食べれるかしら。細長くすればそのマスクの口に入るよね」

「…たぶん」


御堂はこの流れを見て思った。逢坂は気配り上手な上に機転が早い。
鼎の食事用マスクの開口部を見ただけで分析するなんて。やっぱりこいつ…ただ者ではない。



そんなこんなで。

「みんなで食べましょ〜。樋口〜ご飯よ〜」
和室の戸がすーっと開いた。この男性が樋口か。


いちかは中垣と友達感覚になっている。フレンドリーないちかと気さくな中垣は気が合うようだ。
女性3人は和やかな雰囲気。男性陣は微妙な雰囲気。盛り上がっているのは逢坂と稲本だけ。御堂はめんどくさげ。


いちかはめちゃめちゃ美味しいのか、恍惚の表情に。

「うんま〜。このスープ、逢坂さんに教えられた通りに作ったら、上手く行ってる!
あたし、たぶん初めて料理成功したかも…。逢坂さん…お母さんみたい」
「やだー、お母さんだなんて」

逢坂、照れる。リアクションが完全に女子。



そして楽しいランチは終わった。いちかは鼎を見る。

「きりゅさん、マスクの口元ほとんど汚れてない…。そのマスクでピザって食べるの難しいんじゃ…」
「逢坂の気配りのおかげでほとんど汚さずにすんだよ。今から仮面に替えるが、マスクの開口部はがっつり消毒するよ」


きりゅさんのあの食事用マスクケース、毎回口元を消毒してから箱に入れてるんだ。定期的にメンテナンスもしているらしい。



鼎といちかはシェアハウスを出た。いちかは嬉しそう。

「きりゅさんまた行こうよ!逢坂さんのご飯食べに」
「御堂のシェアハウスは食堂じゃないんだよ…。逢坂は次元が違うからな、あいつ…」


少しの間。

「凝った料理を作らせるとかなりヤバイぞ。店で出せるレベルだ」
「なにそれ!?気になるじゃん!」

いちかは逢坂の料理がますます気になるように。



御堂のシェアハウス・共同スペース。


「逢坂…いちかはヤバイぞ。餌付けしたのか?」
「餌付け?」
逢坂は御堂の問いにきょとんとしている。

「あいつ…たぶんまた来るぞ。お前のメシ食いに」



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