「また俺んとこ来るの!?メシ食いに?いちかが!?」
あれから2日後。鼎は御堂にそんなことを言ってきた。御堂は仕方ないな〜という感じで、スマホを出すと何やら弄ってる。

「逢坂にラインしたから。そしたらすんなりOK出たわ。あいつ、いつでもウェルカムらしいぞ」


なぜに御堂は逢坂の連絡先を知っているのか…。


「鷹稜(たかかど)が作ったご飯も美味しいが、逢坂のは独創的というか…センスがあるというか…。そもそも逢坂は一体何者なんだ?」


御堂と鼎は司令室にいる。宇崎は研究室で何かやっている模様。


「逢坂はちょっとわかんね〜やつなんだよ。何かで稼いでるらしいが、職業不明。平日の昼間にいるあたり、在宅勤務とかじゃねぇのか。わからんけど。
ちょっと謎なんだよね〜、あのおじさん」
「時々オネエ言葉が出るが、変なやつではないし…。ファッションセンスが独特すぎるよな…。料理の時は割烹着だし」

「割烹着ね〜。あいつのこだわりだってよ。なぜかエプロンだとしっくり来ないんだってさ」


いちかは逢坂の割烹着姿を見て、お母さんっぽいと感じたのだろうか。



鼎はゼルフェノア司令資格の参考書をなんとなく読んでいた。御堂は気づく。


「その分厚い本、何?」

「ゼルフェノア司令資格の参考書だよ。一応見ておこうと思ってね」
「噂には聞いてる超難関の司令資格…鼎は受けるのか?」

鼎は本を閉じ、御堂を見た。彼女は顔の大火傷の跡を隠すために白いベネチアンマスクをしているが、どこか憂いを帯びたように見える。気のせいか?

「私はまだ経験浅いし、受けるには早すぎるだろうよ。最短でも組織の司令資格取得には2年かかっているからね。
憐鶴(れんかく)から少し話を聞いたよ。あいつ…ああ見えて司令資格あるというし」

「あの憐鶴が司令資格あるのかよ!?」


御堂はかなり驚いている。

特殊請負人もとい、通称・怪人専門執行人のあの裏の人間の憐鶴が!?


「彼女は執行人の特性上、司令資格は1度も活かされたことはないと聞いたが…資格がある分、ゼノクでは司令補佐と同等の扱いらしい。
…ま、これを知ってる人間は長官達ゼノク3役と、憐鶴の協力者の2人だけだが」

「つまり、鼎と同等なわけね。便宜上は」



その日の夕方。鼎といちかはちゃっかり御堂のシェアハウスに来た。晩ごはんパターンは初めて。


「こんばんは〜っす。ご飯食べに来ました〜」
いちかのいつものノリに、御堂は突っ込む。

「ここは食堂じゃねぇんだぞ!」
「和希、別にいいだろうよ。逢坂がめちゃくちゃ乗ってるし」


「あら〜。鼎ちゃんといちかちゃんまた来てくれたの〜?ほらほら上がって上がって〜」

いきなりオネエ言葉だ。どうやら彼はテンション高い模様。いつの間にか鼎のことまで「鼎ちゃん」と呼んでいる。


「おーさかさん、今日は何すか?」
「いちかちゃんが凝ったもの食べてみたいと言ってたから、キッシュとビーフストロガノフ作ったわよ〜」


割烹着姿で洋食を出してくるギャップよ…。洋食なのは鼎といちか用。御堂は食べたいものをテキトーに作ってる。

御堂もまあまあ料理は作れる。いわゆる男の一人暮らしの料理って感じのものだ。逢坂のご飯は時々食べるが、時々自炊している。


御堂は肉野菜炒めに味噌汁、ご飯の和食。味噌汁はインスタント。

「あ〜うめぇ〜」
御堂は満足げ。鼎といちかは逢坂の料理に舌鼓を打っている。

「なにこれめちゃめちゃ美味い!!お店にありそう!!おーさかさんすごいよ〜」
いちかは感激してる。

「このキッシュも美味しい…!」
鼎もどこか嬉しそう。


逢坂はニコニコしてる。

「喜んでもらえて嬉しいわ〜」
「おーさかさん、なんか『逢坂食堂』って感じがするっすよ」

「食堂は極端よ〜」



そんなこんなで鼎といちかは帰りは御堂の車に送って貰うことになる。


「たいちょー、いいの?」
「もう暗いだろ。何があるかわかんねぇから2人とも送ってあげるよ」

「たいちょーありがとー」
「和希、ありがとね」
「別にいいだろ」


最初にいちかを家に送り、その後鼎をゼルフェノア本部寮へ。


「鼎」
「なんだ?」

「また来てもいいんだぞ」
「鷹稜が寂しがるから、逢坂のごちそうになるのは今度にするよ」

「そうじゃなくて…鼎、俺んちに来るのはいつでもいいんだぞ」
「……そうだね、そうするよ」


鼎は部屋へと帰った。御堂はそれを見届けると、車を出した。


部屋に入った鼎は鷹稜に心配されてしまう。


「鼎さーん、最近かまってくれなくて寂しいですよ〜」
「お前、過保護すぎるぞ!!」


鷹稜はたまにかまってちゃんになる。対怪人用ブレードが人間化した鷹稜だが、主である鼎に対しては過保護。


「鷹稜、わかったから!晩ごはんは食べてきたが、何かしら作っていたんだろ…?お菓子とか」
「作ってましたよ〜」

「じゃあそれ食べるよ」
「クッキー焼きました。食べますよね?口直しにどうですか?」
「わ…わかったから…」


鼎、鷹稜の押しには弱い。



翌日。ゼノクから西澤と烏丸が本部へと向かっていた。
車は西澤が運転。烏丸は後部座席に座っている。


「なんで西澤室長も一緒なんですか…?」
「元はと言えば…烏丸がこうなってしまったのは俺に責任がある。ゼノクスーツ実証実験の被験者にしてしまったんだから……」

「何も影響なかったのは幸いです。このスーツ…本来は治療目的ですよね?
健康な人が着たらただの全身タイツじゃないですか…」

西澤、図星だった。
「ま、まぁ…見た目はあれだけど、ゼノク異動当時の烏丸は僅かに怪人由来の後遺症が出ていたからなぁ…。
被害に遭ったわけでもないのに」


「………それで被験者に私が選ばれたんですか…」
「謝っても謝りきれない…。ごめんな…」
「このスーツ、改善の余地がありそうですけど…。どうなんですかね」

「ゼノクスーツを考案したのは長官だが、改良したのは俺だよ。
ゼノクの技術は高いんだが、このスーツに関しては着用者によって左右されるからなかなかうまくいかなくてね…」
「それで仕方なくこの形になったんですか…」

「このままにして欲しいという要望も入居者からあったんだ。
…烏丸みたいなスーツ依存の者が出たのは想定外だった……。それも職員ばかりで」


西澤と烏丸は本部へ向かっている。1日だけ烏丸はこの日、本部に行くことになっていた。