鼎はあることが非常に気になっていた。光と澪にあんなことを言ったものの、相手は中学生。中2病全開で、ヒーロー活動継続するのでは?…と。


「和希」
「どうした?お前が呼ぶなんて」

「…次、怪人が出現した時、和希といちかが出撃してくれ。
…ここからなら晴斗の高校もまあまあ近いだろ。もし晴斗を見かけたら、拉致してでもいいから晴斗も連れて行って欲しい」
「拉致ってまでも晴斗が必要なのか…」

「あぁ。自称ヒーローの光と澪の写真がこれだ。彼女達の勘違いで甚大な被害が出たら洒落にならなくなる。…止める必要があるんだよ!」
「そこで高校生隊員の晴斗のお出ましって算段か」
「和希は話が早いから助かるよ」


御堂はあることが気になった。

「彩音は行けないのか」
「彩音は烏丸の対応に当たるし、元はカウンセラーだ。話し相手は必要だろ。
最近私も彩音とまともに話出来てないけど、心は通じあってるから大丈夫だ」


鼎はスマホ画面を見せた。ラインは頻繁にしてるらしい。
本部にいてもなかなか直接話す機会がないようだ。たまに休憩所に居合わせた時や食堂では彩音とは話をしている。親友ということもあり、互いに忙しくても心配無用なようで。



都心では怪人出現。今度は厄介な人間態→怪人態パターン。これには光と澪も油断していた。

「ヒーローのお出ましよ!…あれ?怪人はどこ?」
光は辺りをキョロキョロ見渡す。そこには人間態から怪人になる者がいた。怪人は今までのはぐれ怪人に比べると強い個体。

光は怪人の裏拳で吹っ飛ばされてしまう。澪は思わず叫んだ。
「光っ!?」
「なにこれ…強い……」

光はなんとか立ち上がろうとしているが、怪人が迫っていた。



御堂といちかは出撃。途中、下校中の晴斗を拉致し強引に出撃させる。


「ちょ!?御堂さんに時任さん!?」
晴斗、驚く。
「晴斗、悪いが付き合ってくれよな。ブレードはあるだろ」
晴斗、首を縦にぶんぶん振る。晴斗の対怪人用ブレード・恒暁(こうぎょう)は手を翳し、「来いっ!」と念じると自動的に来るようになっていた。恒暁は地味に進化していたのだ。

「暁くん、ごめんね〜。今回は暁くんの力が必要なんすよ」
いちか、ごめんね〜って顔してる。晴斗は手を翳し恒暁を呼び寄せた。これで晴斗は戦える。



都内某所。澪は光を庇いながらクロスボウで攻撃するもなかなか当たらない。
その隙に怪人は2人に攻撃。澪もダメージを受ける。

ヒーロー活動している2人だが、素人にはかわりなく戦闘スタイルなんてものはない。だから敵に簡単に読めてしまう。


2人がいる周辺では被害が出始めていた。爆発音と悲鳴。



その頃いちかは両手首に装着した改良型ワイヤー展開装置で、宙を飛んでいた。
ワイヤーを展開し、建物に引っ掛けることである程度の空中移動が出来るように。

従来型のワイヤー展開装置では高度の跳躍なんて出来ない。この装置を改良したのは宇崎だった。
最近、研究室に籠っていたのはこれのため。


「いいよな〜、お前は空飛べてよ〜」
御堂からの通信。

「ワイヤー同時に複数展開出来るようにもして貰ったからね!あたしじゃないとこれは無理っすよ」
「『絃(いと)使いのイチカ、見参!』…ってか」

「たいちょー決め台詞取らないで〜」



都内某所では2人がなんとか抗うものの、圧倒的な強さには勝てず。
人間態ってこんなにも強いの!?太刀打ち出来ないじゃん…。

よく見るとその怪人は戦闘員クラスをいつの間にか出現させている。
こいつははぐれ怪人じゃない…!


そんな中、御堂は自前のカスタム銃で遠距離から怪人に向けて発砲。弾は当たらなかったが、かすったらしい。
怪人は御堂の方向を見た。

「お前達なの?『自称ヒーロー』さん。初めてか?人間態相手はよ」
「だ…誰ですか…?」
澪は恐る恐る聞いた。

「ゼルフェノア本部隊長・御堂和希だ」


た…隊長!?この口の悪い人が隊長!?


「いちか、晴斗。さっさと片付けてしまおうか。いちかは市民の避難誘導先によろしく。被害を広げるわけにはいかんでしょ」
「ラジャーっす」

いちかはワイヤーを展開し、早く辿り着くと混乱する市民達を避難させている。
戦闘員がじわじわ来てるっすねぇ。早いとこ完了させないとな。


「2人も逃げて!」
「…怖くて腰が抜けてしまって…」
光は涙声。澪も怯えてる。


「いちか!避難完了させたか!」
御堂からの通信だ。
「この2人だけっす、後は。腰が抜けて動けないみたい…」

「いちか、お前ヒーローに憧れてゼルフェノアに入ったんだろ?その2人に見せてやれ!」
「ラジャー!」


いちかは迫り来る戦闘員複数に対して一気にワイヤーを複数展開→辺りに張り巡らす。
「戦闘員さん、こっちだよ〜」

いちかは挑発。戦闘員は一気にやって来たが、いちかは平然としている。
「光さんと澪さん、直視しない方がいいかも」
「…え?」
「ワイヤーめっちゃ張ったから、スプラッターになるのね。平気なら見てもいいよ。…でも中学生には刺激強いかな」


それから数秒後。いちかは一気にワイヤーを引く。戦闘員はワイヤーでバラバラに斬れ、まとめて倒される。

「ごめんね。これが現実なの。あたしもヒーローに憧れてゼルフェノアに入ったんだ。自分の必殺技が欲しくて訓練したし、鍛練もしてる。
結果的にワイヤー使いになっちゃった。このワイヤーは斬る以外にも使えるから役には立ってるんだ」


中学生2人からしたらいちか周辺の光景はショッキング。御堂から怒号が。

「何スプラッターにしてんだよ!手加減せいよ!」
「そんな暇ないじゃないですか。たいちょーと暁くんはどうなの?」
「今、ちょっと劣勢」

「いちか、援軍行きまーす!」


いちかは御堂と晴斗の元へ向かう。光と澪は御堂とあの高校生隊員が気になっていた。
あの制服…高校のだ。あの人…高校生隊員!?


「晴斗、発動させなさいって」
「ここ都心でしょ?シールドシステム起動させなくていいの?発動させたら衝撃波で被害拡大するよーっ!!」

「聞いていたよな、鼎。シールドシステム起動してくれ。じゃないと晴斗の発動は使えない。
それまでに俺といちかで持たせるから」
「わかったよ。シールドシステム起動!」


鼎は被害を最小限にするべくシステム起動させた。ゼルフェノアが首都圏に構築した、シールドシステムは設定を変えれば範囲を変えることが出来る。
彼女は既に頭の中に場所を叩き込んでいた。


「シールド範囲、半径3qに設定しておいた。これで持つか?」
「鼎さん、ありがとう!」
晴斗の通信だ。



都内某所では晴斗がブレードを使い、発動させる。
久々の発動だが、そこは慣れていた。

「恒暁、行くよ!」
晴斗は刀身が発光するブレードを使い、一気に攻撃。
発動するブレードには怪人も抵抗出来なかったようだ。


「ふ〜。片付いたっと。晴斗、拉致ってわりぃな」

「いきなりすぎるよ!このパターン初めてだよ!?御堂さん、まさか鼎さんが俺を呼んだの!?」
「そうだよ。鼎がお前を必要としていたの。だから拉致ったわけ。文句があるなら鼎に言え」

「…ありません」
「…だろうなぁ」


いちかは光と澪を見た。2人は隊員のハイレベルな戦闘を見て目が覚めたらしい。
「やっぱりもう、やめようよ。ヒーローごっこ。本物には敵わないよ…なにあれ…次元が違う」
「でも仮面の司令補佐が道はあるとか言ってたよ」

「それ…本当なのかなぁ」


御堂は晴斗を2人の前に突き出す。
「こいつが本部の高校生隊員・暁晴斗だ。ガキでも隊員になれる世界なの、ゼルフェノアは。これでわかったか」


口…悪いなぁ…。本当に隊長?銃の腕はものすごいけど。


3人は戻って行った。仮面の司令補佐に口の悪い隊長…ゼルフェノア本部、癖強くない?

光と澪はヒーロー活動をきっぱり辞めることに。



本部では。宇崎と彩音が烏丸と西澤、行きだけ同行した調査員の都賀屋を迎える。

「よく来たね〜、大変だったでしょう。都賀屋はもう帰るのか?」
宇崎、営業スマイル。
「本部にいると落ち着かないので…」


組織調査員は任務がない時は基本的に、拠点となる場所にいないと落ち着かないらしい。


司令室に西澤と烏丸を通す。あらかじめ桐谷を司令室に入れていた。

「烏丸さん、本部で会うのは久しぶりですね。疲れたでしょう」
「は、はい…」


鼎は帰還する御堂達の映像を見ている。彼女達のヒーローごっこは終わった模様。中学生に振り回される対怪人組織って、変な構図すぎるだろうが…。


彩音は本部の奥にある宿泊棟を案内した。

「烏丸さん。着くのが予定よりもだいぶ遅くなったから、泊まってけって室長が言ってるんだけど…。部屋は綺麗だし、寝具も手入れされてるから安心して」
「あ、ありがとうございます」

「緊張してるよね。桐谷さんとたくさん話して。烏丸さんが頼れる先輩は本部には桐谷さんしかいないって聞いたから…」
「…久しぶりの本部だから、どうしたらいいのかわからなくて…」


「相談ならいつでも乗るよ。烏丸さん、元は本部隊員なの知らなかった。ずっとゼノクにいるからわからなくて。何かあったの?」
「…ごめんなさい。まだ言えないです」

「桐谷さんなら言えるってことかな?私はお邪魔だったみたい。でも気になったらいつでも呼んでね。
烏丸さんと西澤室長は泊まりだから明日1日で何か掴めるか…なぁ…」


烏丸はかなりの戸惑いを見せる。

「宿泊棟、静かですね」
「普段は泊まる隊員いないからね〜。今はまあ平和になったぶん、夜勤の隊員が泊まることがなくなったのもあるよ。夜勤はなくなったからね」
「この宿泊棟、女性用ですよね」
「うん。下の階は全て男性用だよ。女性隊員は滅多に泊まらないから宿泊棟の部屋数が少ないって聞いたな。女性用フロアが烏丸さんだけって大丈夫?もし心配なら私も今日、本部に泊まるよ。不安でしょう」

「彩音さん…」


烏丸は相当不安だったようだ。宿泊棟女性用フロアにたった1人って、セキュリティがいくら万全とはいえ不安にもなる。


「彩音さん、一緒に泊まってくれませんか…?」
「いいよ。烏丸さんはゼノクスーツの着替え…持ってきてないか…。予定が狂っちゃったから…。廊下の洗濯機は自由に使っていいよ」

「ないですね。ないと本当に不安で不安で」
「替えのスーツがないとキツいもんな〜。ちょっと聞いてくるね」


彩音は宇崎に連絡。

「烏丸のゼノクスーツの替えがあるかって?司令室に西澤いるから聞いてみる」


少しして。


「あるって。西澤は一応予備持ってきてたみたいだよ。色は選べないけどいいかな?…って聞いてる」
「烏丸さん、OKだって。1日だけだからスーツの色は気にしないって言ってました」

「本部にいるから気にしなくていいもんな。彩音、烏丸を頼んだよ。明日は桐谷がメインだけどね。サポートよろしく」