怪人専門執行人こと、「特殊請負人」は対怪人組織・特務機関ゼルフェノアにおいて異質な存在。
組織公認で裏稼業をしているのもあるが、ターゲットのほとんどが怪人の人間態。
組織公認というか…実際のところは、長官公認の裏稼業といった感じ。
執行人の存在は組織内でも知らない人は多く、彼女らが拠点としているゼノクの一部の人間と本部の一部の人間しか知らない。
ゼノク・地下にある憐鶴(れんかく)達3人の拠点。
憐鶴の協力者・苗代と赤羽は暇そうだ。
「ひま〜暇だよ〜…」
「俺と苗代は隊員扱いだから臨機応変に出来るけど、憐鶴さんはそうはいかないだろ…」
「赤羽、わかってるってば〜…」
この2人はプライベートでも仲良し。苗代と赤羽は執行人への依頼が来ない通常時、普段の制服はゼノク隊員のブルーグレーのものを着ている。たまに黒い制服を着ている時もあるが。
依頼が来て憐鶴が動く時、彼ら2人は黒い制服もとい黒い薄手のコートを着る。
最初から黒い制服なのは憐鶴のみ。彼女は執行人の実行役であることから隊員とは違う扱いになる。
「憐鶴さーん、何してるんですか〜?」
苗代が声を掛けた。
憐鶴はPCをいじっている。
人間態の怪人をターゲットにした闇サイトの管理人でもある彼女は依頼が来てないか、毎日チェックしてる。
このサイトが組織黙認であることはほとんど知られていない。
「依頼のチェックですよ。あれから件数はかなり減りましたが…それでもポツポツ来てますね」
「依頼来てます〜?」
赤羽はだるそうに聞いた。
「1件、匿名で来ていますがかなり怪しいですね。
『ヴェルダの夜明け』の中に怪人がいるかもしれないって…この名前、数ヶ月前に本部を襲撃した武装集団のことでは」
苗代が反応した。
「あれ?そいつらほとんど捕まったんじゃなかったっけ。…まだいたの?」
赤羽は自分のPCでその武装集団についての資料画面を憐鶴に見せた。
「憐鶴さん、苗代。こいつらまだ全員捕まってないぞ。
主犯格の『ハヤウエ』が行方不明。あと、名前はわからんが女性も1人行方を眩ませてるらしい」
「この依頼…もう少し様子見ですね。罠かもしれないですし。
武装集団がゼノクを狙う理由は十分にありますから」
「憐鶴さん、この妙な依頼…長官に話すんですか?」
苗代がなんとなく聞いた。
「まだ話しませんよ。罠なら長官を巻き込むことになりかねない」
本部。御堂が副隊長の仁科(にしな)となにやら話している。
「鼎が教えてくれたんだけどさ、本部に変なメールが来たんだと。ゼノクに関することだったとさ。
送信者が匿名なんだよ…なんかきな臭くないか?」
「気のせいだとは…思いますけど」
「数ヶ月前に本部襲撃されただろ。武装集団に。
主犯格がまだ行方不明ってのが…」
「ハヤウエでしたっけ」
「そう。そいつ」
「本部襲撃されてから数ヶ月経つが…次のターゲットにするなら支部じゃなくて、ゼノクだろうな」
「…ゼノクには巨大な研究機関がありますからね〜。あと、長官もいる。後で僕も司令室へメール確認してもいいですか」
「お前…副隊長だろ。確認しておけよ。もし、ターゲットがゼノクになるなら…ゼノク隊員だけじゃキツいかもしれねぇ。
ゼノク隊員はその独特さゆえに本部・支部隊員と比べたら戦力が劣るんだよ」
ゼノク・憐鶴の地下本拠地。
「…憐鶴さん、西澤室長から本部にも匿名の怪しいメールが来たそうです。本部に来たものはゼノクに関する内容だったと」
苗代、慌てて伝える。
「厄介な依頼なのか、罠なのか…。本部に聞いてみますか。紀柳院さんには既に変な依頼については伝えているんですよ。
依頼メールコピペして、本部に転送しておきました」
行動早っ!
苗代と赤羽は知っていた。
憐鶴さんと紀柳院さんはあれ以降、度々連絡している。ほとんどメールでのやり取りだが。
そんなゼノクを見下ろせる場所からある男性が下見をしていた。行方不明だったハヤウエである。
「ゼノク…デッカイな〜。研究機関はあの後ろのバカデカイ建物か。本館もなかなかにデカイが…。
本部よりかは攻略がめんどくさそうだ。ここに蔦沼長官がいるわけね」
ハヤウエ、明らかに何かを企んでいる?
本部・司令室。鼎はこの日、身体の調子が今一つだった。
「鼎、無理すんな。救護所でちょっと休んでくれば?調子悪そうに見えるけど…」
宇崎が心配そうに声を掛ける。
「あぁ…ちょっと休んでくる…」
なんだか発作の前触れみたいな状態になってんな…。鼎のやつ、あいつ本当に大丈夫か?
御堂は通路で救護所に向かう鼎を見かけた。
「鼎、お前…大丈夫じゃないだろ」
「和希…先に休ませてくれ…。調子が悪いんだ」
以前もあったな、こんなこと。下手したら病院行きになりかねないのが鼎だ。今までの戦闘のダメージと火傷のダメージが蓄積された結果、彼女は戦えない身体になってしまった。
場合によっては天才外科医・加賀屋敷の世話になる。
本部・救護所。御堂は鼎をベッドに寝かせた。
「動悸と息切れが激しいのか?」
鼎、うなずく。御堂は現在の鼎の状態を聞いていた。
実は水面下では危うい状態らしい。
ある条件を満たした時、鼎は何度目かの手術を加賀屋敷から受けるよう、言われている。
その加賀屋敷はゼノクにいるのだが。
「最近変なこと、してないよな?」
御堂は恐る恐る聞いた。
「…運動のことか?…こんな身体じゃ出来るわけないだろ。ドクターストップかかっているんだぞ…」
鼎の身体は悪化しているらしく、かなり辛そう。
「鼎…『手術の条件』ってなんなんだ?加賀屋敷が出した条件だよ」
「…重い発作が出た時だ。それも命に関わるレベルのな…」
今じゃないのかよ…。明らかにキツそうなのに。
御堂は何もしてあげられないため、どこか悔しそう。
「和希、何かあったらすぐに知らせろ。私はしばらく寝てるから」
「あ…あぁ」
御堂は何も言えずに救護所を出た。
ゼノク・司令室。憐鶴はようやく怪しい依頼メールを西澤と蔦沼に見せた。
「これは受けた方がいいのでしょうか」
「まだ実行には移さない方がいいね。だって現在ヴェルダの夜明けで行方不明なのはたった2人だ。
『ハヤウエ』ともう1人…誰でしたっけ?」
「西澤、『レオナ』だよ。レオナはなぜか発作を起こした紀柳院を助けたらしいが…」
「文面から察するに、ゼノクは狙われてそうですけど…」
「ゼノク隊員は元々ゼノクだけを守るために作られた隊員だから、ちょっと戦力がね…。優先順位はゼノク館内にいる入居者や職員の避難が先でしょ。攻撃的な隊員が少ないのはそれもあるの」
「例外…いるじゃないですか。長官、とぼけないで下さいよ」
「特殊請負人のことかな」
ハヤウエはまだ気づいていない。特殊請負人の憐鶴の存在を。
翌日。鼎は休んだ。本部隣接の病院に行ったらしい。
「和希、そう心配すんな。鼎のことは前々から言われていただろ」
「わかっちゃいるけど…。あいつの身体…治せるのか?あんなにもぼろぼろなのに?明らかに限界超えてるだろ…」
「和希は鼎を支えてやればいいんだよ。ただ側にいればいいの。言葉なんていらない」
「室長…空気読めよ」
ゼノクでは改めてセキュリティチェックや設備チェックも入っていた。
「なんだか嫌な感じがするんだよね〜」
粂(くめ)はなんだか胸騒ぎがするようだ。
「冗談やめて下さいってば〜」
三ノ宮はわざとらしいリアクション。
憐鶴達は依頼を受けることにしたが、かなり慎重。
ハヤウエとは何者なのか、顔を見たわけじゃないので緊張する。
「何も起きなければいいんですが」
苗代が呟いた。
特別編(2)へ。