「加賀屋敷、なんで紀柳院にあんな条件…わざわざつけたんだ?」
ゼノク隣接・組織直属病院の一角、ゼノク医療チームの本拠地。志摩が加賀屋敷に問い詰めた。

「彼女に関しては何度もオペしてるが、今回ばかりは難しいかもしれないんだよ…。体力が持たないかも…。あれだけ身体に負荷がかかっているとなると…」
「本部の御堂からお前に直談判したいと連絡が来たぞ。早く治療させろって。紀柳院…マズイんじゃないのか」


あの御堂隊長が?


「志摩・嵯峨野・姫島、御堂がそういうならこっちも聞き入れようじゃないか」

「条件撤回するの!?」

姫島は驚いた反応。加賀屋敷は難しそうな顔をした。


「いや…まだ決めてない。紀柳院司令補佐のことをよく理解している人間のひとりが御堂隊長なのは聞いていた。…彼から話を聞くだけなら」
「でも御堂は荒っぽい性格よ?大丈夫なの?」



本部。御堂は病院から帰ってきた鼎を見た。やっぱり辛そうに見えた。
鼎は白いベネチアンマスクが特徴的な司令補佐だが、仮面は顔の大火傷の跡を隠すために着けている。


「鼎…お前本当に大丈夫か?」
御堂、かなり心配そう。

「鎮痛剤を貰ったが…気休めにしかならないだろうな。身体はガタが来ているらしい」

「ちょっと待てよ!それってかなりヤバいってことだよな…。嘘だろ…」
御堂、信じられないような声を出す。


知らず知らずのうちに鼎の体調は悪化していた。1年前の戦闘がかなり響いているらしい。
ただでさえ身体は火傷のダメージがあるのに、そこに戦闘のダメージが付加されてしまったからだ。


「医者から言われたよ。いつ、発作が出てもおかしくないとな…。
重い発作が出たら危険だとはっきり言われたよ。覚悟はしているが」


覚悟って…死のことか?


「…鼎、ゼノクの加賀屋敷に直談判した。
まだ答えは返ってきてないが…お前を治せる医者…もう、あいつしかいないんだろ…」
「ゼノク医療チームしかいないな」

「お前を救いたい」


御堂は喋るのがやっとな状態。内心泣きそうになっている。大切な人を死なせたくはない…!



ゼノク・地下本拠地。


憐鶴(れんかく)達は例の匿名依頼メールを分析中。なぜかゼノク隊員の三ノ宮が呼ばれた。

「なんで僕が分析しなくちゃならないんですか!?」
「ゼノクには本部の解析班のような部署はないですからね。三ノ宮さんの技術なら特定出来るはず」


「三ノ宮さん、お願い!」
苗代は両手を合わせて懇願。赤羽も深く礼をした。
「お願いします。もしもゼノクの危機に関わることなら、回避したいから」

「…わかりましたよっ!」
三ノ宮、半ばヤケで匿名メールの送信元を分析することに。


憐鶴は呟いた。
「三ノ宮さん、協力してくれてありがとうございます」
「執行人に手を貸すなんてな…。ま、同じ組織だし、持ちつ持たれつみたいな感じですかね?
本館ではセキュリティチェックなどは既にしてましたよ。長官仕事早いな…」



都内某所。ハヤウエは計画を立てていた。


「レオナ、今回は君は裏切り者の加賀屋敷を始末してくれ。ゼノクにいるのは確実だからね」
「そう来ると思ったよ。
…ハヤウエ、もし紀柳院司令補佐がいた場合はどうするの」

「補佐には危害を加えるなよ。彼女はゼノクにいるとは考えられないが。あの時見ただろ。彼女は本部在籍だ」
「ゼノクを狙う目的は研究機関かぁ」

「あの巨大研究施設、何かしらある。本部の場合は研究室だったが何もなかった。あるとするならゼノク研究機関だろうね」
「他のメンバーまた寄せ集めたの?報酬で釣ったんでしょう」
レオナはだるそうに聞いた。

「そうでもしないと襲撃は無理だ。ゼノクのセキュリティは本部よりも堅牢だからな」



本部。御堂は加賀屋敷と改めて電話で直談判してる。
加賀屋敷は御堂の話を聞き入れることにしたらしい。


「あの条件なんなんだよっ!加賀屋敷…鼎を治してくれよ…」
御堂の声は切実。

「…紀柳院は何度もオペしてるが、今回は難しいかもしれないんだよ。紀柳院の体力が持つかもわからない……」


鼎は御堂のスマホをいきなりふんだくった。

「ちょ!?鼎!?」


「加賀屋敷…それは本当なのか?私は生きたいだけなのに…」


鼎は御堂のスマホを彼に返した。
「加賀屋敷、鼎はこう言ってる。それにいつ、発作が出てもおかしくない状態なんだ…。もう鼎が苦しむ姿を見たくない…。わかるんだよ。あいつは仮面の下でずっと耐えていたのを知ってたから」
「…わかったよ。ならばゼノクに来てくれ。御堂、君も一緒にだ。紀柳院は君を必要としている」

「ありがとうございます」


御堂は通話を切った。涙がじわじわ出てきてる。
鼎はそんな御堂の側に来た。


「許可が出たのか?」
「…出たよ。お前を治すって…」
「加賀屋敷が許可を出すとはな…」


「鼎、一緒に行こう。ゼノクへ。お前の治療にな」



ゼノク・ゼノク医療チーム本拠地。


「加賀屋敷、許可出したの?どういう風の吹き回しよ!?」

「御堂の切実な想いにやられた…。このまま放っておけば紀柳院は死からは逃れられない…。最悪な事態を回避するよ」

「あんた、闇医者時代を思い出したのかねぇ」
「姫島、それは余計だよ」


加賀屋敷は元闇医者。なんやかんやあって蔦沼に拾われた経緯がある。蔦沼は手術代とは別の100億と引き換えに、加賀屋敷は組織の人間となった。

蔦沼は加賀屋敷の存在を警察から眩ませている。これは交換条件。
志摩・嵯峨野・姫島は元闇医者ではないにしろ、わけありの医者や看護師だ。ゼノク医療チームは凄腕ドクターやナースばかりだが、謎が多い。


「じゃあこっちに紀柳院と御堂が来るんだね」
嵯峨野、少し嬉しそう。
「病院のセキュリティチェックを頼んだよ。志摩」

「ラジャー」


加賀屋敷は何かを察したらしく、志摩に本館隣接の病院のセキュリティチェックを任せた。後に嵯峨野と姫島も合流してる。



裏切り者には制裁を。

これはハヤウエのモットーだ。組織を裏切った加賀屋敷は消さなくてはならない。
今回の計画は綿密というか、執拗な感じだ。



「三ノ宮さん、何か出てきましたか?」
憐鶴が三ノ宮に聞いてる。

「痕跡がまるっきりないです。これじゃあわからないよ…」



ハヤウエはレオナにこんなことを言っていた。


「ゼノク隊員には構うな。あいつらは本部隊員に比べたら戦力は劣るからね」
「なんでわかるんですか?リーダー」

「ハッキングして調べた」


用意周到だな、おい。


「応援に本部隊員が来るのは想定内だ。ゼノクは俺達が知らない何かを隠してそうだが、蓋を開けてみないとわからないからね」
「今回はあくまでもゼノク研究機関と加賀屋敷を消すことなのね」


「そういうこと」


ハヤウエ、ついに動き出す。今回のターゲットはゼノク。ゼノク研究機関と加賀屋敷の抹殺だ。



憐鶴は何かを察したようだった。


「三ノ宮さん、急いで地上へ戻って!」
「?…え!?」
三ノ宮、かなり戸惑いを見せる。

「ゼノク隊員にあなたがいないと不利になる。私達は私達なりのやり方がありますので」

三ノ宮はさらに困惑した。


執行人には執行人の流儀があるってことなんだろうか…?


御堂と鼎はゼノクへ向かっていた。ヘリで。


「ヘリとはまた大袈裟な…」
鼎がヘリポートで呟く。

「ゼノクには飛行場がないから、最速だとヘリになっちまうんだよ」


御堂はめんどくさそうに言ってる。鼎は御堂の手に触れた。

「鼎は心配すんな。俺がいるから大丈夫だよ」



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