ゼノク襲撃約1ヶ月前――
ハヤウエはメンバーを集めて都内某所のアジトにいた。アジトは雑居ビル。
ハヤウエは寄せ集めたメンバーを派手に迎えた。
「よく来てくれた我が同志よ。計画に乗ってくれてありがとな。報酬は出しておいたから貰ってくれ」
「ハヤウエ様、ありがとうございます!」
喜んだのはマカベ。ゼノク襲撃計画は約1ヶ月前に立てられた。
ハヤウエとレオナが主体となり、寄せ集めたメンバーを訓練させたり銃や格闘の手解きを教えたり。
ゼノク襲撃約10日前――
メンバー達の結束は固くなる。Xデーに向けて。
「ナガト、銃の腕上がったじゃないか〜。この調子でやってくれよ」
ハヤウエはメンバーに優しく声を掛けた。
メンバーはリーダーのハヤウエを始め、レオナ・ナガト・キヅチ・オオシマ・マカベ・ハヤセの8人の他にも数人いる。
武装集団がゼノク襲撃してから既に数時間経過している。
病院ではいちかがレオナを見張りつつ、加賀屋敷達ゼノク医療チームと共に病院を守っていた。
「いちかさん、もう病院は大丈夫だと思いますが…」
加賀屋敷は平静を保ちながらそう言ってる。
「確かに玲央名さんは加賀屋敷先生を狙ってた。病院を狙っていたわけじゃない。
…きりゅさん、いや…紀柳院司令補佐は大丈夫なんだよね?たいちょーから聞いたんです。きりゅさん手術受けたって」
「戦闘出来ない身体であることは代わりないですが、以前よりは発作は出なくなったかと…。彼女は今、集中治療室にいますから」
集中治療室…。たいちょーはきりゅさんの側に行きたいはずなのに、必死に戦ってる。
その頃の御堂。
突如起きた爆発に巻き込まれそうになったが、寸前のところで回避。御堂は戦闘員と乱戦に。相手は怪人なので暴れまくっている。
「やっと暴れられるわ」
御堂はニヤリとした。御堂は人間相手よりも、怪人相手になると本領発揮。
爆発は1階でも起きていた。粂(くめ)が仕切る。
「爆発と煙幕か…。苗代!赤羽!あんたら本当は強いんでしょ!?戦いなさいよ!執行人の協力者なんでしょ!?」
「粂、お前何仕切って…後ろ!!後ろにいる!」
「…えっ?」
粂は背後の戦闘員から攻撃を受けた。弓使いの粂からしたら近接戦は苦手。弓自体は2つに分解すると近接用の武器になるが、そんな暇なんてない。
戦闘員は煙幕に紛れて攻撃してきた。苗代と赤羽主体で怪人を蹴散らす。
「粂は出来ることをしろ!!」
急に頼もしくなる苗代。
御堂はなんとか戦闘員を倒し、二階堂と憐鶴(れんかく)のところに合流。
「ハヤウエ見なかったか!?」
「見てません」
二階堂も煙幕に紛れた戦闘員と戦っていたらしい。これは憐鶴も同じだった。
「もしかしたら1階かもしれない…。ハヤウエは……!」
憐鶴が呟いた。
「1階には誰がいる!?」
御堂は二階堂に聞いた。
「粂さんと憐鶴さんの仲間の苗代さんと赤羽さんです」
「ヤバいんじゃねーのか!?」
ハヤウエはあらかじめ研究施設内部にいる仲間を配置させていた。
これは数日前に、ゼノク研究員研修生として潜入させたメンバーだ。名前はサガミ。
ハヤウエはサガミと通信。
ハヤウエは正面突破ではなく、別な場所から研究施設へ突入しようとする。爆発と煙幕はゼルフェノアを撹乱するために過ぎない。
「サガミ、例の入口…開けられるか?」
「いつでもOKです」
「解錠しろ。内部の研究員は予定通りに拘束したんだろ?」
「えぇ。人質にしましたよ」
「サガミ、例の部屋は見つかったか?」
「まだ見つかりません。これだけ大きい研究施設だと手間取りますね」
「もう1人の仲間がいただろ。そいつは?」
「イノウエなら例の部屋に繋がる場所を検索中です。おそらく地下にあるのかと…」
「地下ねぇ〜。『Z-b2』という名前からして、確かに地下深くにありそうだな」
1階に到着した御堂達。だがそこには倒された戦闘員しかなく、ハヤウエはいなかった。どこへ消えた!?
ゼノク研究施設。サガミとイノウエはハヤウエが探している例の部屋「Z-b2」を捜索中。人質にした研究員もこの部屋を知らない人ばかり。
…あの部屋を知る人間はゼノク3役あたりか?
サガミは他のメンバーにコンタクトを取ろうとするが、本館にいたメンバーのほとんどがゼノク隊員や本部隊員に拘束されている。
「あれ…?反応ないぞ?」
「サガミ何やってんだよ!!」
「部屋のことを知ってる人間…司令室にいる可能性が高い」
「司令室!?蔦沼と西澤か!」
サガミはハヤウエに通信。
「例の部屋の場所を知る人間は司令室にいると思われます!どうしますか!?」
「…え?司令室に突入するに決まってんじゃん。あの部屋の場所を吐かせるまでよ」
「ハヤウエ様が行くの!?」
「サガミとイノウエは部屋の場所を続けて捜索しろ。恐らく地下深くだろうよ。簡単には見つからないようになってるさ」
ハヤウエ、司令室に侵攻開始。
ゼノク・司令室。
「ハヤウエの目的はあの部屋か…。なにがなんでも阻止しないとね」
マイペースを崩さない蔦沼。西澤は焦る。
「長官、戦う気ですか!?」
「うん。司令室の外でドンパチするから西澤と南は隊員達に指示出しといて。
研究施設にはね、研究員も知らないトップシークレットもあるのだよ」
トップシークレット!?
「西澤と南は知らないんだっけか。
そりゃそうだよね。だって僕と『加賀屋敷』しか知らないんだからね」
長官と加賀屋敷が!?
蔦沼は両腕の義手を弄り始めた。あ、戦う気だ…。
久しぶりに戦うから本気なんだ、この人。
ひとしきり、義手を確かめた蔦沼はこう言うと司令室を出た。
「後は任せたよ」
「長官!?死なないで下さいよ!!」
西澤は大袈裟だが、心配してる。
「修羅場は慣れてるから」
いや…そういう問題じゃないでしょ!?いくら戦闘慣れしてるからって。
長官が戦うの、1年数ヶ月ぶりなんじゃ…。
ハヤウエはずかずかと司令室へと進む。蔦沼はどこにいるのかな?
司令室がある階とは違う階に、蔦沼は待ち伏せていた。
「探す手間が省けたな。わざわざ長官から出てくるなんてね〜」
「ハヤウエと言ったか。研究施設が目的なのかい?」
「何、とぼけてんだよ。例の部屋の場所とパスワードを教えろ」
「断固、拒否します」
「交渉決裂か」
「ゼノクのトップシークレットを敵に明かすわけ、ないだろう?ハヤウエ、残念だったね〜」
蔦沼は余裕を見せつつ義手を展開する。そのタイミングで桐谷達一部の隊員も合流。
「助太刀しますよ」
「桐谷と上総(かずさ)か。援護よろしく」
「了解!」
なぜ、蔦沼は余裕なのか。ハヤウエはまだこの時点ではわからなかった。
研究施設の例の部屋を知る人間は、司令室にいる蔦沼以外にもいることを。それも病院にいるということを…。
例の部屋を知る人間のひとり・加賀屋敷はなんとなく嫌な予感がした。
ハヤウエは長官と戦っている可能性が高いな…。
義手の長官は戦闘力は高いが、両腕が義手であるがために全体的な力は劣っているちぐはぐな状態。
加賀屋敷はそれを懸念していた。あの義手は蔦沼しか使えない特殊なものだが、医者からしたら不安感しかない代物。
それを使っている蔦沼は、過去に義手を最大出力にして右腕の義手を使い物にならなくしたこともあり、西澤にこっぴどく怒られていたこともある。
いちかは鼎が気になっていたようで。
「加賀屋敷せんせー、きりゅさんはまだ麻酔から覚めないよね…」
「まだ覚めないよ…。覚めたとしても彼女は人工呼吸器やチューブに繋がれたまま。しばらく会話出来ないだろうな…」
「きりゅさんは難しい手術だったってたいちょーから聞いた。…きりゅさんそんなに深刻だったんですか…?」
「…深刻だった。あのまま放っておいたら…彼女は死んでいた」
いちかは涙目。加賀屋敷先生がいなかったら、きりゅさんは助からなかったんだ…。
いちかは感情が出やすい。
我慢していたけど、涙が出てくる。
「きりゅさん…もう苦しむことはないの?」
「やれることはやりました。あとは彼女次第です。身体が限界なのによく頑張りましたから。
発作も以前よりは出ないはずですよ」
「きりゅさん…。良かった…。せんせー、ありがとう。きりゅさんがいない本部なんてあり得ないから」
この2人の側には拘束された玲央名がいたが、会話を聞く形になり、自然と涙が出ていた。
私は司令補佐の命の恩人に手をかけようとした…。バカだ…。
そんなことしたら司令補佐は…私に復讐するだろうと。あの人はきっとそうする。
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