武装集団によるゼノク襲撃から数ヶ月後。鼎はあれから退院し、本部に復帰していた。
いつもの本部の風景が戻る。


本部に鼎が復帰した日、いちかはオーバーに嬉し泣き。

「きりゅさんおかえりー」
「いちかはいちいちオーバーだな」

鼎はいちかの頭をなでなでする。
御堂達、馴染みのメンバーも彼女の復帰を祝っていた。司令補佐がいない本部はどことなく、いまいちまとまりがないというか…。


「鼎〜、調子はいいのか?」

宇崎がフランクに話しかける。鼎はいちかから宇崎に目線を向けたように見えた。
実際のところ鼎は顔の大火傷の跡を隠すため、白いベネチアンマスクを着けているのだが。

「あれからびっくりするほどなんともないよ。順調に回復してる。
ただ、あの状態から治療した影響で戦闘禁止にはかわりないが。以前とは違って、多少の運動なら出来るようにはなったよ」


あ〜、やっぱりな〜…。戦闘禁止…。でも多少は運動出来るようになったのはすごい回復だと思う。
鼎は復帰前からウォーキングをするようにしていたらしいし、日常生活で走れるぶんには身体が回復したってことかな。

宇崎は安堵の表情を浮かべる。


ゼノク医療チームじゃないと火傷のダメージと戦闘による、幾多のダメージの蓄積で身体に限界来ていた彼女は治療出来なかったと聞いた。それだけ難しい手術だったとか。



ある日のいつもの司令室。

怪人はめっきり出なくなったため、鼎は司令資格取得のためのテキストを見ている。


「…司令試験……受ける気か?」
宇崎が恐る恐る聞いた。

「まだ指揮の実戦経験が足りてませんよ、私は。ただ、気になっていただけで」
鼎の話し方が少し優しくなっている。


「…鼎の好きなようにすればいいさ。
ま、難関なのにはかわりないけどね。たった2年で受かった北川がおかしいだけでさ」


鼎は気になったことを聞いた。

「あれからゼノクはどうなったんだ?
武装集団は全員確保されたと聞いたが、首謀者が怪人なのは初めて聞いたよ。首謀者は怪人態ゆえに激戦の末、倒されたんだってな」


その情報、どこから聞いた。
あれから病院にお見舞いに行ってたのは和希といちか、彩音だったらしいし和希かいちか経由かな…。


「ゼノクねぇ…。今頃『異空間対策本会議』でもしてんじゃないかな〜。
あまりにも異空間案件が多いから、長官が上層部を集めてしてるみたいだが、俺と小田原司令は蚊帳の外。ハブられた…。司令は司令の仕事しろだとよ」



ゼノク本館・大会議室。


そこではゼルフェノア上層部と研究者を集めた会議が行われていた。
今回の議題は「異空間」に関することだったため、本部司令の宇崎と支部支部の小田原はいない。

会議参加者の多くがゼノク研究施設の人間。それと宇宙局司令の鴻(おおとり)もいる。


長官の蔦沼はあることが引っ掛かっていたらしい。
「あまりにも異空間案件が多くないか?」…と。


ゼノク研究施設・地下エリア兼総合室長の冬木がこんなことを言う。

「異空間対策に関してですが、ある程度は予測を立てれるように研究を進めました。
ただ…『時空の裂け目や歪み』など『時空』絡みとなると難しいですね…」
「冬木、そこまで研究進めてたのか!?」

蔦沼の声が思わず上擦る。


「異空間ゲートのパターンはいくつかありますが、おおよその怪人対策は出来るようになりました。
時空に関しては予測不能なんですよね。形が決まっていないし、解明が進んでいないから。研究は現在も進行中ですよ」


この世界の怪人絡みの異空間案件には、いくつかパターンがある。

・ワームホール型
・物理介入型(物を介して異界へ繋がる的な)
・ワープ型(ある一定の場所からいきなり異界へ飛ぶ)


最も多いのがワームホール型。ワームホールは上空に出現したり、ゲートの規模が大きかったりと様々だがこれがとにかく多い。
ゼノクにも異空間ゲートはあるが、これは研究者が実験でワームホールを作り出したもの。


「『時空の裂け目』や『時空の歪み』に関しては手つかずなのね。確かに都市伝説で聞く、異界に行った話は時空の歪みが絡んでいそうだが…。
最近そういう事案、ない?」

蔦沼はフランク。西澤は気になったことを話始めた。


「最近、電車が走らない不可思議な場所にやけに古い電車がちょいちょい目撃されていると聞きます。
タイムスリップしてきたようなレトロなものらしいです」
「詳細を」


「長官、信じるんですかー?」
西澤、大袈裟に反応。
「いいから。時空案件だとかなりめんどくさいぞ」


「わかりましたよ。都市伝説の域ですが、電車が走ってないところにそのレトロな電車が走っていたそうです。時間帯はほとんど夜。
その電車にうっかり乗ったか気づいたら電車内にいた人の情報だと、ありもしない駅に着いたとか」

「その人は元の世界に戻れたの?」
蔦沼はあった体で聞いている。


「なんとか戻れたそうです」
「まるで『きさらぎ駅』みたいだな、それ」

鴻が食いついた。


「なんですか?それ」
ゼノク研究施設、A〜Gエリア担当の夏井室長が聞いてきた。冬木は教えてあげてる。


「有名な都市伝説だよ。ネット掲示板が発端でしたっけ。ありもしない駅に着いた話ですよ。ま、気が向いたら調べてみては」
「はぁ…」

夏井、都市伝説にはいまいち興味ない。


会議というよりは報告会の様相になってる会議室。



ある日の夕方。女子高生が部活帰りに不可思議な光景を目撃、スマホで動画を撮影したことでこの謎のレトロな電車はSNSで拡散された。



数日後のゼノク司令室。


「長官、SNSで時空の歪みらしき電車が…バズッてます」
西澤は真顔で報告、モニターにそのSNS投稿画像を拡大して見せる。

「意味わからないこと言わないでよ、西澤」
蔦沼は「嘘だろ〜?」な反応。



この謎のレトロな電車が後に、ゼルフェノアの一部の人達に波乱を起こすこととなる。

それは時空の歪みに関係していた―――



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