親切にするエクササイズで人間力が高まる

幸福な人ほど、人に対して親切であるということが研究でも裏付けられています。親切と幸福が結びついているのなら、親切な行動を増やすことで幸福度を高めたり、悲観的で傷つきやすい気持ちを改善することはできないのでしょうか。

ダンら三人の研究者は、このことを確かめるために、ある実験をしました。五ドルまたは二十ドルを実験の参加者に与えて、それを自分に使ってもいいし、人のために使ってもいいと伝えたのです。その結果は興味深いものでした。もらったお金を自分のために使った人よりも、他人のために使った人の方が、大きな幸福感を味わえたのです。面白いことに、金額と幸福感の大きさは関係なかったそうです。

親切な行為も、同じことを繰り返すよりも中身を変えて新鮮味をもたせた方が幸福感を高める効果があり、小さな親切を毎日やるよりも一度に固めてやった方が、多く高揚感が得られるという研究結果も出ています。

そうなると、親切は他人のためだけでなく、その人自身のためでもあるということになるでしょう。いずれにしても、親切には、それをされた相手だけでなく、それをした本人も幸福になれる作用があるということです。

親切な行為が過敏な傾向を和らげるかどうかについては、今のところデータがありませんが、幸福感と過敏さが中等度の負の相関を示すことから、過敏さに対する効果も期待されます。

親切と過敏さがどう結びつくのかと、腑に落ちない方もいらっしゃるでしょうが、その二つは結びついても何ら不思議はないのです。

親切は、優しさと言い換えることもできるでしょう。どちらも他人のために行動することであり、また温かい気持ちを伴っているという点でも共通します。

そして、優しさに関与するのがオキシトシンという愛着ホルモンです。優しく世話をするときだけでなく、優しい気持ちで人と接したり、笑顔をかわすときでさえも、オキシトシンが分泌されるのです。オキシトシンには、抗ストレス作用や抗不安作用があり、過敏さを和らげてくれます。虐待された子どもが過敏な理由は、恐怖の体験によるトラウマのためでもありますが、安定した愛着が育まれないことでオキシトシン系の働きが悪いため安心感がもてないということにも起因しています。

そう考えると、人に親切にして優しい気持ちになることによってストレスや不安が減り、過敏さも和らいだとしても不思議はないのです。

優しくなりなさいと言われると抵抗がある人もいるでしょうが、親切にしなさいと言われれば受け入れやすいかもしれません。しかも、情けは人のためではなく、自分自身にも返ってくるのです。

家族に優しくすることには抵抗がある人も、親切にするのだと割り切れば、ハードルが低くなるかもしれません。そして、他人に親切にする以上に、家族に親切にすることには大きなメリットがあるのです。