翌日。御堂は鼎を探している様子。

「室長、鼎見なかったか?」

司令室にいた宇崎はのんきに答える。
「弓道場で弓矢の練習してるかもな」
「…止めろよ。なんで止めないんだよ。わかっているよなぁ?鼎の身体にこれ以上負荷かけたらマズイだろうが…」

御堂、宇崎に若干イラッ。


「…あ、和希。今日は桐谷と彩音はゼノクから来た烏丸と一緒に行動するから指示すんなよ。烏丸は今日1日いるから。夕方頃西澤と帰るってさ。
あいつら3人は自由行動だからね。烏丸が何かしら掴めればいいんだが…」

「わかったよ」
御堂はぶっきらぼうに言うと司令室を出た。なぜに室長は鼎を止めなかったんだ…。あいつが内心戦いたいのはわかるけど。



本部・弓道場。鼎は単独で弓矢の訓練中。戦えない身体になったものの、弓矢なら負荷があまりかからないため彼女はたまにこの場所にいた。

あの時、粂(くめ)に弓矢の正しい使い方を教わった甲斐があった…。
粂とはゼノク隊員の弓使い。鼎はゼノクに行った時にちゃっかり粂と会っていた。


「鼎…お前1人でここにいたのかよ」
「和希か。…どうしたんだ?」
「お前…身体大丈夫なのか」

「弓矢なら負荷があまりかからないというの、和希は知らなかったのか」


…え?


「知らなかったみたいだな。銃だと反動がヤバいが、弓矢はそうではない。補佐が戦うのは稀だが、何もないよりはいいだろ?」

た、確かに…。


「今日は烏丸には関わらないよ。烏丸には桐谷が必要だ。今日1日彼女は桐谷のところにいるだろうよ」
「古巣の本部でゆっくりしてきな的なスタンスなのね」



本部・休憩所。烏丸・桐谷・彩音の3人はそこで緊張しつつも話してる。ゼノクスーツ姿の烏丸は顔全体を被うマスクで見えないものの、かなりおどおどしてるのがわかる。
本部にいた頃は快活な人だったのに。


「今日は自由行動なんですか?私…」
「自由だと室長が言ってましたよ。本部にいるのもよし、周辺に行くのもよしです。要望があれば私と彩音さんも一緒に行きますよ」


「桐谷先輩…あのお店、よく連れてってくれましたよね。お昼…そこで食べませんか?」
「いいですよ」

桐谷はにっこり笑った。



本部・司令室。西澤、ようやく宇崎と合流。

「なんでまた西澤まで来たわけよ?烏丸がスーツ依存になった原因は明らかにお前だろうが。烏丸本人から聞いたぞ。
ゼノクスーツ実証実験の被験者になったって」
「烏丸には謝りました。あの感じだと人前ではゼノクスーツのままかもしれないと思って連れてきたんですよ」

「…ふーん。うちの桐谷がどうするかで烏丸は左右されそうな気がする。それに…本部時代は明るかった烏丸がなぜにゼノクに行ってから人が変わってしまったんだ?その実験のせいか?」

「実験は大袈裟ですが、その時はまだ彼女は明るい人でしたよ。それ以降ですね…コミュニケーションが苦手になったのは」
「烏丸はもしかしたらかなり繊細なのかもね。彼女の前でスーツ依存の話はあまりするなよ〜。
これは個人で決めるものだからな。ゼノクスーツ姿の職員はつまり、『そういうこと』なんでしょ」


烏丸に無理強いをしてはならない。



やがて昼休みが来た。桐谷達は本部近くのある老舗食堂へ。そこは老夫婦が経営している店だった。


「いらっしゃい。おや、桐谷さんではないですか。もしかしてその隣の人は…」
「後輩の烏丸さんですよ」


烏丸!?一体この数年間何があったんだ。ゼノクスーツ姿で顔は一切見えないし、おどおどしているあたり人が変わってしまっている…。


「烏丸さん、何か思い出しましたか?」
「…は、はい。少しずつ…。私が新人の時からよく、桐谷先輩が何かあると連れて行ってくれたので覚えています」

「好きなの選んでいいですよ。とにかく…座りましょうか」
3人はテーブル席へ。3人が来た時間帯はお昼のピークを過ぎたあたりだったので空いていた。


3人はそれぞれ食べたいものをオーダー。烏丸は本部時代をだんだん思い出してきたようだ。

「本部にいた頃…楽しかった。ゼノクへ行ってからは閉鎖されたような場所なので、変わってしまったのだと思います」
「烏丸さん、ペラペラ話せてるよ。大丈夫」

彩音のアシストが入った。


やがてオーダーした料理が運ばれてきた。
烏丸は食事用器具を装着。マスクと一体化したので開口部が出現。ゼノクの謎技術全開なのはもはやお馴染み。

「烏丸さん、美味しいですか?」
「…懐かしい味がする…」
烏丸は懐かしい味にしみじみ。


しばらくして。


「桐谷先輩、ここに連れてきてくれてありがとうございます」
「いいんですよ。安心したようですね。…何か掴めましたか?」

「まだ…わかりません」


烏丸は馴染みの食堂の味を久々に食べ、何かを掴みかけていた。まだもやもやしてるけど。



本部では帰ってきた桐谷達を優しく迎える宇崎。

「桐谷達おかえり〜。どうだった?」
「楽しかったですよ。烏丸さん、本部時代を少しずつ思い出したみたいで…」

「思い出したんだね。烏丸、帰るか?まだ本部にいるかい?」
「まだ本部にいたいです…」

「よし、なら夕方頃までいてもいいよ」



御堂は憂鬱そう。出る幕がないせいか、なんとなくどよーん。

そこに鼎がやってきた。


「和希にしては珍しいな。憂鬱なのか?」
「出る幕なしってこういうことかよ…。烏丸に関しては桐谷さんが1番わかっているからな」

「烏丸は昼休みから戻ってから少しだけ明るく見えた気がしたんだ。西澤もああ反省してるし、彼女次第だろうな」
「別に今決めなくてもいいんじゃねぇの?」



やがて、烏丸と西澤はゼノクへ帰る時間に。

「また本部に来てもいいんですか?」
烏丸の声は明るい。
「いいよ。こっちの都合がつけばいつでも。桐谷をゼノクに送ることも可能だよ」

「良かった…」
烏丸、安堵の声。



ゼノクに帰る道中の車内。


烏丸は少しだけ明るさを取り戻していた。

「烏丸、なんかちょっとだけ明るくなった気がするけど…」
「桐谷先輩と彩音さんのおかげです」

「あんまり深く考えなくてもいいからね」


宇崎司令と何か話していたのかな…。西澤室長…なんだかやんわりした感じになってる。


「ゼノクに着いたら、七美に会いに行ってくれないか?なぜか俺のところに眞(まこと)から連絡が来てね。
七美は烏丸に相当会いたいみたいだよ」
「七美さんはああ見えて寂しがりですからね…」


「…あ、そうだ。ゼノク着いたら先に晩ごはんだね。食堂で何食べる?」
「気が早いですよ。まだ東京出てないじゃないですか…。せめて埼玉入ってからにして下さい」



本部ではようやくいつも通りの雰囲気に。

「和希、お前どこにいたの?気配なかったけど」
「別にいいだろうがよ…」


御堂の憂鬱は続く。

ま、こんなことは日常茶飯事なんで美味いもんでも食って気分転換するか。逢坂のメシ、今日は何だろ。


あいつのメシに癒されていたんだな。