さぁ、ゲームの始まりです――
江戸時代と大正昭和の街並みが混在するようなちぐはぐな異界にて。
鼎達はこの異界の謎の男から、「ゲーム」をクリアしないと元の世界には戻れないと告げられたのだが――
「…ってか、ここどこだよ!?」
御堂はわけもわからず、叫ぶ。
なぜ、鼎達はこの異界にいるのか?時系列を遡ってみよう。
いつも通りの本部。その日は普段よりも帰りが遅くなっていたのだが。
「鼎、悪いな〜。付き合わせてしまって。おかげで残業片付いたよ。さ、帰んな。…なんで和希までいるんだよ?」
宇崎は鼎と共に珍しく残業していた。
「いいじゃねーか。鼎の寮はそこそこ近いとはいえ、夜は危ないだろうがよ。何あるかわかんねーし」
「待っててくれてたのか」
鼎は優しく御堂に声を掛ける。
「…ああ」
「仕事は片付いた。室長、ではお先に帰ります」
「気をつけてな〜」
宇崎は鼎を見送った。和希のやつ、鼎を自然とエスコートするようになったのか。今は暗いし、いた方が安全だからね。
ゼルフェノア本部を出て徒歩で鼎を寮へと送ろうとする、御堂。この場所一帯には線路ひとつもない。
不可思議なことが起きたのはこの直後だった。そろそろゼルフェノア本部寮に着くかどうかのところで、鼎はあり得ない光景を見てしまう。
鼎は思わず立ち止まった。
御堂は彼女が気になったようで。
「…どうした?」
御堂はいぶかしげに聞く。鼎の目線はある方向をずっと見ていた。
「なんで電車があるんだ?ここには線路なんてないはず…」
「電車ぁ?」
鼎は指を指した。御堂も思わず見る。そこには1両編成のかなりレトロな古い電車が見えたのである。
まるで路面電車のように見えたが、なんなんだ。かなり古い車両。年季が入ってる。
その電車は減速し、2人の前へと停まった。
停まった…?
やがてドアが開く。乗れということか?
気づいたら鼎と御堂はその電車の車内に座っていた。
乗った記憶もないのに。車内はシンプルに長椅子があるだけのものだった。車内も古びている。
天井には年代ものの小さな扇風機がついている。かなり古い車両なようだ。
鼎はパニックを起こしやすい電車がとにかく苦手で乗れないのだが、不思議なことにこの不可思議な電車に対しては何も感じなかった。
電車が停まった時間帯は夜だったはず。なのに車窓は時間が巻き戻っているのか、明るい。一体何が起きている?
運転席には運転士がちゃんといるが、その運転士の姿がぼやけて見えない。不可思議な電車はワンマンだった。
しばらくするとアナウンスが流れた。
《次は〜聿箕輪(いちみのわ)駅〜聿箕輪駅〜》
聞いたことのない駅名。この電車は一体どこへ向かっているんだ?
やがて電車は終点に着いた。終点の駅名は「三埜摩堂(みやまどう)駅」。聞いたことのない、名前。
いつの間にか電車内には鼎と御堂を含めて7人乗っていた。
7人は全員、「ゼルフェノア本部関係者」。これは一体どういうことだ…?
駅に降りて不気味だったのは、時間がかなり経っているはずなのに空に変化がほとんど起きてない。時間が狂っているのか?
この電車と駅は時空の歪みだったのである。
三埜摩堂駅から出ると、そこには不可思議な光景が広がっていた。
「なんじゃこりゃあ…」
御堂は呟く。
その街は江戸時代と大正昭和の街並みをごちゃ混ぜにしたような場所。
駅周辺は栄えているらしく、着物や袴姿の住人や袴にブーツ姿の女性にモボにモガ、はたまた軍人のような人までいる。
7人はよくわからないままに、変な街を散策することに。街並みはまるで、日光江戸村か太秦映画村みたいなんだが…。映画のオープンセットにしか見えない…。
でもこの感じ、映画のセットではなさそうだ。
7人は中心地らしき場所に来た。そこには時代劇に出てきそうな街並みには似つかわしくないものが鎮座していた。
「なんだこれ?檻?」
「晴斗、これは牢屋だ。牢屋には見えない作りだが…何かしらあるぞ、この不可解な街は」
鼎は冷静を装うものの、だんだん不安に。
不自然なのは中心地に行くにつれて住人がいなくなっていたことだった。牢屋のある場所周辺は人っ子1人もいない。
「ゴーストタウンですかねぇ?でも駅周辺には住人らしき人達がたくさんいました。これは一体…」
桐谷、推理モードに。
「きりやん、あたし達変な場所に飛ばされたんじゃないの?あのヘンテコな電車で。
あの電車、降りたくても降りれなかったもん。おかしいよ」
こう言うのはいちか。
7人はさらに探索するも、牢屋以外はわからず。するとどこからか声が聞こえてきた。声は男性。
《ようこそ。時空の歪みへ。あなた達は選ばれました》
「意味わからんぞー!」
「説明しろ!!」
晴斗と御堂がギャーギャー叫ぶ。
《これより、あなた達7人にはゲームに挑戦して貰います。『生き残りゲーム』です。
元の世界に戻りたければ、ゲームのクリア条件を満たすことですね》
「ここに呼んだのはお前かっ!?」
御堂、謎の声に噛みつく。
《だとしたらどうします?》
「答えろよ!!」
なんだこいつ…よくわからねぇけど、ムカつくなーっ!
ゲームクリアしないと元の世界に戻れないとか、ふざけてんのか!?
ゼノク・司令室。
「不可思議な電車がまた目撃されたらしいよ」
蔦沼は軽いノリ。
「またですか!?時空の歪みなんですかね、それ…」
西澤は不安そう。
「本部隊員7人と連絡取れないそうだ。その中には暁もいるそうだ」
暁も入っているのかよ!
「長官、どうします?7人の連絡取れない隊員のメンツ、本部には欠かせない人ばかりですよ!?緊急事態ですってば」
「時空絡みか…。厄介だな…」
一方、時空の歪みの街では。
謎の声はゲームマスターと名乗る男性。
《ゲームのルールを説明しましょう。空を見て下さい》
空?
鼎達は空を見上げた。そこには時代劇とレトロな街並みには似つかわしくない、近未来的な映像が。
《プレイヤーはあなた達7人。この街には怪人がうろついてます。生き残りゲームのクリア条件は2人。
怪人の弱点は胸です。そこをその専用装備で撃って下さい。
怪人から一撃でもダメージを受けた者は自動的にそこの牢屋行きとなります。内側からは出られませんが、外側からなら開けられます。
この街には時空を漂う無の存在もいますので、うまく活用して下さい》
時空を漂う無の存在?
《ゲームは第3ウェーブまで行います。その間には休憩出来ますので》
「無の存在とはなんだ?」
《紀柳院司令補佐、勘がいいですね。無の存在はタッチすれば味方サイド・敵サイドにもなれる不思議な存在で、攻撃はしないため害はありません。彼らは協力してくれます。
怪人は槍や刀状の武器を持ってますので用心して下さいね。個体によっては球を投げてくるものもいますから》
某鬼退治番組と何かを2つ足して割ったようなゲームだな…。
第3ウェーブまであるってどういう意味だ?
《ウェーブというのは怪人の群れが来る時間帯のこと。3回怪人の群れがこの街に来ることを意味しますよ、御堂隊長。
一撃でも攻撃を受けたらリタイアになりますので、やみくもに肉弾戦はしない方がいいですよ?》
「とにかく最低2人、こっちは残ればいいんだな?…1ウェーブには時間が設定されてんのか?」
《約30分です。ですが、最終・第3ウェーブだけはゲーム時間は約45分となります。休憩時間は最低1時間はありますのでご心配なく。次のウェーブが来るまでは自由時間です》
「専用装備はこの銃なんだな」
鼎達はいつの間にか出現した、白い銃を手にしていた。
《人間に当たっても害はありません。怪人にしか効かないものですので》
鼎達はこの生き残りゲームに強制参加する流れに。
クリアしないと元の世界には戻れないというのだから、ゲームに参加せざるを得ない。
上空のビジョンは消えた。ルール説明は終わったらしい。
しかし、このゲームマスターの狙いは一体なんなんだ?
プレイヤー7人、全員ゼルフェノア本部隊員って絶対ゲームマスターのやつ…何かあるとしか。
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